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(idea2024年8月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
ユネスコ無形文化遺産「伝統建築工匠の技」にも登録されている「茅葺」「茅採取」の技術。文化として継承すべき貴重な技術ですが、現在、当市在住の「茅葺職人」は1名のみです。その職人技(伝統技術)を記録するため、当市に現存する茅葺屋根の葺き替え作業に密着!貴重な技術を拝見するだけでなく、実際に作業にも参加させていただきながら、昭和初期までは各地に存在した「茅無尽(結)」にも思いを馳せてきました(前号の続き)。
(記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果です。)
■「差し茅」と「葺き替え」
茅葺屋根は、経年劣化や鳥害により、穴が空いたり、薄くなることで、雨漏り等が発生します。そのため、定期的に修繕作業が必要で、「葺き替え」と「差し茅」の2つが主な修繕方法です。
「葺き替え」は、屋根表面だけでなく、茅の下にある垂木等も含め、全面的に交換する作業です。対して「差し茅」は、傷んだ古茅のみを取り除き、そこに新しい茅を差し込んで補強していく方法です。「葺き替え」よりもずっと少量の茅で済む=金銭的負担も少ないため、近年は「差し茅」が主流です(職人や材料不足の関係もあり)。
「差し茅」による修繕を行う周期は、日当たりなどの立地条件によって異なりますが、15~20年周期が多いようです。この時、一度に4面とも変えるのではなく、数年おきに1面ずつ行うなど、金銭面や職人・作業者の負担を考え、計画的に修繕を行う家も。今回密着取材した室根町矢越の小山家では、約20年ぶりに、2年かけて3面の修繕を行いました(北側屋根のみ約10年前に実施)。
■「差し茅」作業の流れ
茅葺屋根が主流だった時代は、近隣住民10戸程で「結」や「茅無尽」を組んでおり、それらの組織で材料の調達や実際の作業を行いました。
「差し茅」は足場を組んだ屋根の上で行われますが、茅は屋根の傷み具合を見ながら、随時適切な長さに切り、屋根の上に運ばれます。そのため、作業員は「地上」「足場の上」「屋根の上(屋根表)」の3つのエリアに分かれることで、効率的に作業を進めます(「梁取り」の作業時には屋根裏(=屋内)に回る人員も必要)。
屋根の上で作業するのは職人で、地上作業や足場の上での作業(下回り役)は、親類・近隣住民等の結で集まった人が従事(かつては職人の弟子等も)。今回の棟梁・佐藤才治さん曰く、「当時は職人1人につき下回り役が最低1人はついていた」のだとか。
かつては足場の設置も茅葺職人の仕事であり、それが作業の最初の工程でした。
茅葺職人が組む足場は、木や竹を縄などで組んだものであり、家の周りを舗装した家ではそうした足場が組めず、業者に単管足場を依頼することも多くなりました(小山家も舗装されているため、今回も業者依頼)。
◆茅葺屋根の葺き替え作業に用いられる道具たち(一部)
差し棒
屋根に隙間を作り、古茅を除去&新しい茅を差し込む際に使用
ガギ
差した茅を叩き、揃えていく
針
穴に縄や紐を通し、屋根裏と行き来させることで、茅や長木を固定
押切
尺寸の指示を受け、茅を指示通りの長さに切る
茅葺屋根の「差し茅」作業に密着してみた②
前号に引き続き、室根町矢越の小山家にて令和5年12月~令和6年4月にかけて行われた、茅葺屋根の葺き替え作業をベースに、「差し茅」における「仕事の流儀」を記録していきます!
※前号では「仕事の流儀1」として「棟梁の選任」、「仕事の流儀2」として「茅の準備」の工程をご紹介していますので、併せてご覧ください。
|仕事の流儀3|「梁取り」作業
差した茅や、屋根表の足場となる長木を固定するために行う作業を「梁取り」と呼び、経験とチームワークが試されます。
屋根裏に登った人と屋根表にいる人が、屋根越しに声をかけ合い、1m程ある「針」を使って、縄や紐を行き来させることで、「押さえ棒木(後述)」や長木を固定します。
暗い屋根裏での作業は、現在はヘッドライト等を使いますが、昔は「カンテラ」等を使用。針が直撃すれば失明等の危険もあり、信頼関係が重要です。
|仕事の流儀4|「材料」の準備
地上では屋根表の職人からの指示を受け、各種材料を準備し、足場の上に運びます。
大変なのが「茅束」づくり。茅の長さは細かく指示が入ります(4.5尺~2.5尺程度の間)。
「押切」を使って指示された長さに切り、根元部分2束、穂先部分2束の計4束を一つに束ね、足場の上の作業員経由で職人の手元に届けられます。
その他、茅を固定するための竹串を加工したり、上から大量に落ちてくる古茅を片付けたり(畑の肥しにする)、職人たちがスムーズに作業できるよう、動き続けます。
|仕事の流儀5|「差し茅」作業
屋根表では「差し棒」を使いながら古茅を除去し、除去した部分に新しい茅を差していく作業をひたすら行います。作業員は横一列に並び、同じ段を同時進行で作業。
茅を差し、茅が一定の厚さになったら、「押さえ棒木」と呼ばれる木の棒(サルスベリなど凹凸が少ない滑らかな木肌の木の枝を使用)で茅を固定する(=梁取り作業)。
|仕事の流儀6|長木の「足場」
地上~軒下までの足場が単管パイプだとしても、屋根表での作業には、屋根に直接長木を固定し(梁取り)、足場にします。
1段終える毎に長木足場が増えていき、最終的に10段程に。
上に行くほど、長木を固定する「梁取り」作業は大変で、最上部まで行き、長木足場を解体しながらの作業もまた一苦労。
今回は稲の「はせ掛け」用の長木を使用しました。
今回は正面と向かって右側面の修繕作業が行われました(密着取材は正面のみ)。雨や農作業で中断した期間を除くと、正面の差し茅作業は約1か月、茅の刈取りも含めると、約5か月かかりました。
なお、作業期間は、依頼人宅が作業従事者にお茶菓子等を準備。今回は搗きたて餅の振舞いも♪
<参考文献(Webサイト)> ※順不同
今野幸正(2009)『みちのくいわての消えゆく茅葺「直家(すごや)」』
菊地憲夫(2003)『岩手の古民家建築』
玉井哲雄(2008)『日本建築の歴史』
中村啄巳(2022)『生き続ける民家 保存と再生の建築史』
一社日本茅葺き文化協会(2019)『日本茅葺き紀行』
井上雅義(2003)『ニッポンの手仕事』
東山編纂委員会(1978)『東山町史』
金沢村教育委員会(1999)『金沢郷誌』復刻発行
室根村史編纂委員会(2004)『室根村史 下巻』
磐清水村誌編纂委員会(1957)『磐清水村誌』
一関カメラクラブ(2023)『一関市の茅葺住宅』
<取材協力>
一関市藤沢町 佐藤才治さん
一関市萩荘 尾崎朋子さん
一関市室根町 ごっつぉ屋
その他、調査にご協力いただいたみなさま、ありがとうございました!
↓実際の誌面ではこのように掲載されております。