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(idea2023年月6月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。

地名の謎ファイル№7 「ウサギ」がつく地名

 市内にある「由来が気になる地名」について深堀りする「地名の謎ファイル」。第7弾は、令和5年の干支「卯」に着目。以前(2020年12月号)、にも「イノシシのつく地名」にスポットを当てたことがありますが、同様に「ウサギ」に関連する「卯/兎」が含まれる地名を調査し、さらにはその由来を探ってみました!結論から言えば、当初想定した、動物のウサギに関係する地名はなかったものの、興味深い話が多々出て来ました。    

(記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果)

 

 

「卯」「兎」「ウサギ」

 ゼンリン地図で確認できた市内の「ウサギ」がつく地名は、東山町松川地内にある「卯入道」「卯入道平」の2つ。この2つは隣接しており、『東磐井の地名と風土』によると、「平」は「ヒラ」と読む場合「傾斜地」を指すのだとか。つまり「卯入道平」は「卯入道」の傾斜地を指すため、この2つは同じ地名と考えることができます。

 

 では肝心の「卯」ですが、同文献では「卯(ウツ・ウ)」=狭い谷、「入(ニュー)」=入り込んだ谷、として、卯入道を「狭く入り込んだ谷」と説明しています(卯入道平はそのうちの傾斜地)。つまり、動物のウサギとは関係がなさそうなのです。

 

 同様に、ヒアリングや文献調査で確認できた小字に「兎口(一関市萩荘)」がありますが、『岩手の地名百科』によると、その由来は、「①『押え口』の転訛で、防備口。②兎口状の二股段丘のある土地」とされており、やはり動物のウサギとは無関係。 

 

 さらに調査を進めると、舞川に「烏兎ヶ森」、川崎に「烏兎山」「高烏兎山」、藤沢にも「高烏兎山」という4か所の山の名前を国土地理院地図で確認することができました。興味深いのは、どの山も「兎」だけでなく「烏」がつく「烏兎」であること。

 

 「烏兎」とは、一般的には「カラス」と「ウサギ」を指し、古く中国では、太陽の中に烏(金烏)、月の中に兎(玉兎)の象があるとしたことから、転じて「太陽と月」を意味したり、「日月=年月、歳月」を意味するようです。

 

 果たして当地域における「烏兎」がつく山の由来とは?気になる結果は下記にてご紹介します!

 

※卯入道(平)・兎口・烏兎ヶ森・烏兎山・高烏兎山のほかに、市内の「ウサギ」がつく地名をご存知の方がいれば、当センターまでお知らせください(笑)

東山町松川地内「卯入道」と「卯入道平」の風景。 手前が卯入道、奥(山間部)が卯入道平。
▲東山町松川地内「卯入道」と「卯入道平」の風景。 手前が卯入道、奥(山間部)が卯入道平。

「卯」は「ウサギ」ではない⁉

 「十二支」の第4番目である「卯」は、「干支」のイメージで「ウサギ」をすぐに連想してしまいますが、そもそも「十二支」は中国で「時間や方角」を表すために使われ始めたものです。そこに動物を当てはめたのは、覚えやすくするための後付けとも言われています。つまり、本来の「十二支」で「卯」が意味するのは、方角では「東」を、時刻では午前5時~7時の間=今の午前6時頃」を指します。

 

 実際、上述の「卯入道」の由来を考察した『松川史伝 二』には「(卯入道は)往古は大沼で今のような平坦な道がなく山の端を登ったり下りたりして通ったところだと言われており、(中略)、太陽は卯の方から出て卯の刻になると水面を煌々と渡っていくが人は通れないという事と、卯(海鳥)は渡れるが人は通れないという事を間接的に表した地名のようでもある」という記載が。

 

 また、「卯月」となると、「卯の花の月」であり、「卯の花」とは「ウツギ」を指します。様々な説がありますが、「卯」は、ウツギを含めた草木が繁る様子を表すとも言われます。

 

 これらのことを踏まえると、「卯」のつく地名は、私たちがイメージしがちな動物のウサギに由来するのではなく、「方角」や「草木の生い茂るような場所」などに由来することが多いのかもしれません。

 

ウサギ(兎)」のつく「烏兎」を比べてみた

 上記でご紹介したように、一関市内には「兎」という漢字を名称に使用している山が4か所も存在します。さらに、この4か所に共通するのが「烏兎」という組み合わせであること。果たして動物のウサギに関係する地名なのか否か、そしてこの4か所の山に共通点があるのか、実際に現地に赴き、山頂にも登り、かつ遠くからもその姿を眺めるなど、様々な切り口から考察してみました!

 

共通点1 尖った山の形(突起=ウトウ⁉)

 「烏兎」という漢字が名称に含まれる上記4つの山を並べてみると、どれも周囲の山に比べ、山頂が尖っています。定かではありませんが、アイヌ語で「ウトウ」は「突起」を意味するらしく、アイヌ語地名なのかと思いきや、「ウド」という名称のうち「烏兎」「善知鳥」「宇道」という漢字の場合は「連峰、鈍頂の山や丘」という、真逆の見解が記載された文献も。※なお、同文献だと「有道」「有戸」「宇登」という漢字の場合には「低くて小さい谷」の意味合いになるらしい。

 

川崎町薄衣 烏兎山

山(うどやま)

一関市川崎町薄衣口永井

 

標高▶323.6m

川崎町門崎 高烏兎山

高烏山(たかうどやま)

一関市川崎町門崎萩崎

 

標高▶287.7m


藤沢町 高烏兎山

高烏

一関市藤沢町西口

標高▶312.8m

一関市舞川 烏兎ヶ森

ヶ森(うどがもり)

一関市舞川小戸

標高▶350.1m

 


 

共通点2 信仰の対象?(烏兎=神が宿る⁉)

 調査を進める中で、長崎県雲仙市に「烏兎神社」があることが判明。この神社、かつては「摩利支天」と称されていたとされ、「摩利支天」はサンスクリット語でかげろうや日の光を意味する言葉なのだとか。何か関連することがないものかと、実際に上記4つの山に登り、信仰の対象がないか捜索!するとそれぞれ中腹や山頂に神社や祠があったのです。

 

 川崎町の烏兎山には古峯神社や養蚕の神を祀った石塔のほか、山頂に石祠があり、この石祠が「日の神」という話も(川崎町の高烏兎山にも同様の石祠がありましたが、詳細は不明)。藤沢町の高烏兎山には愛宕山神社(個人が管理)があり、舞川の烏兎ヶ森には「烏兎輪山観世音」と「岩倉神社」が。結果的に「烏兎神社」や「摩利支天」に関連する情報は得られなかったものの、信仰の場としても大切にされていた山であることは分かりました。

▲烏兎山(川崎町薄衣)の山頂にある石祠
▲烏兎山(川崎町薄衣)の山頂にある石祠
▲高烏兎山(藤沢町西口)の山頂にある愛宕山神社
▲高烏兎山(藤沢町西口)の山頂にある愛宕山神社
▲高烏兎山(川崎町門崎)の山頂にある石祠
▲高烏兎山(川崎町門崎)の山頂にある石祠
▲烏兎ヶ森(一関市舞川)の 中腹にある烏兎輪山観世音
▲烏兎ヶ森(一関市舞川)の 中腹にある烏兎輪山観世音

 

共通点3 「小戸(おど)」という集落の存在

 舞川の烏兎ヶ森は「小戸」という住所に位置し、この地名は「オド」と読みます。また、烏兎ヶ森はかつて「小戸ヶ森(オドガモリ)」と表記されていたことも判明。それらに関連してか、舞川の烏兎ヶ森の周辺住民の中には、この山を現在も「オド山」と呼んでいる人が。

 

 すると…!驚くべきことに、藤沢町の高烏兎山の周辺にも「小戸」という表記を含む「西小戸沢」「東小戸沢」という地名を発見(下記地理院地図参照)!さらに、『門崎村史』に記載されていた屋敷名の記録(出典不明)に、「小戸屋敷」という屋敷名と、そこに関連すると思われる「小戸御林」「東小戸御林」という記載が。「御林」とは幕府直轄の林(森林)であり、地図の記載がないため、現在の高烏兎山を指すのかは定かではありませんが、門崎村内に「小戸」という表記の屋敷と御林があったのです。

 

 川崎町薄衣の烏兎山に関しては、小戸という表記の存在を確認するに至りませんでしたが、3つの山の付近に確認できたことで、「小戸=オド」が訛って「ウド」になったのではないかという推測も……。そこに中国の「烏兎(太陽と月)」を取り入れ、「太陽の昇る山」というシンボル的な扱いにしたのか……などと、妄想は広がります。

<参考文献・論文(Webサイト)> ※順不同

東山町史編纂委員会(1978)『東山町史』

岩手県文化財愛護協会(1991)『岩手県市町村地域史シリーズ43 東山町の歴史』

阿部和夫(1982)『東磐井の地名と風土』/松村明・三省堂編修所(2019)『大辞林 第四版』

小学韓国語辞典編集部(2006)『精選版 日本国語大辞典 第一巻』

新村出(2018)『広辞苑 第七版』/高橋泰三(1956)『門崎村史』

薄衣村史編纂委員会(1972)『薄衣村史』/岩手県神社庁(1988)『岩手県神社名鑑』

藤沢町史編纂委員会( 1981)『藤沢町史 上』

蓮見香佑(2011)『なぜ「烏」という漢字は「鳥」より一本足りないの?』

小野寺豊穂(1981)『松川史伝 二』

一関博物館(2013)『一関市博物館第二十回企画展-地を量る-描かれた国、町、村』

濱田陽・李 イヒャンス 淑( 2011) 『うさぎたちと日本の近現代―日本十二支考〈卯〉生活文化篇―』

  

その他、調査にご協力いただいたみなさま、ありがとうございました! 

↓実際の誌面ではこのように掲載されております。

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