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(idea2020年1月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
当センタースタッフがピックアップした「難解・難読地名」をテスト形式で100人に出題し、当該地域における「読めない地名ランキング」を勝手に作ってしまう人気企画「難解・難読地名に挑戦!」。第4弾となる今回の対象地域は「室根」。今回も「最も読めない地名」に見事選ばれた場所に実際に行ってきました!
※記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果です。
今回の調査には市内外の130人の方にご協力をいただきました(室根町以外の市内各種組織・団体・企業の方、講座や会議等でお会いした方など、当センタースタッフが直接対面しての調査)。その調査結果をランキングにまとめたのが下の表です。
【難解・難読地名ランキング】
※ゼンリン住宅地図に掲載されている地名の読み仮名を正解とします
(「ザワ/サワ」「ダ/タ」なども区別しています)。
地名(よみがな)/正解者数(130人中)
1位 上山(わやま)/2人
2位 勢返(せいかえし)/5人
3位 四百刈(しひゃくがり)/14人
4位 柄杓田(ひしゃくだ)/18人
5位 橘根沢(きつねざわ)/20人
6位 隠谷(かくれや)/21人
7位 古金生(こきんじょう)/23人
7位 温坪(ぬくつぼ)/23人
9位 鳥矢森(とやもり)/25人
10位 化石(ばけいし)/31人
11位 枇杷沢(びわさわ)/32人
12位 欠入田(かけいりだ)/36人
13位 絵図下(えずした)/54人
14位 射勢沢(いせざわ)/74人
15位 大洞(おおほら)/77人
漢字の知識がないと読めず、未解答に終わる地名も多い中、1位となったのは解答記入者数はトップの「上山」!解答としては「うえのやま」「かみやま」「うわやま」が多く、正しく「わやま」と読むことができたのはたった2人という結果でした。
ちなみに全問正解した人が1人だけいたのですが、よくよく聞くと室根に縁がある方でした。それでは室根の人ならほぼ正解か?と、参考までにネイティブ室根住民に読んでもらうと、地元民ならではの訛りが発生し、ゼンリン地図の読み方とは若干異なる(濁点が増える、省略される音がある等)解答も多いということがわかりました。地元の人には、ゼンリン地図に記載された正式な読み方よりも、そうした方言的な読み方の方が通じやすいようです。
さて、室根における難読地名第1位になってしまった「上山」ですが、その由来はいたって単純なようです。文献には「室根山麓で山の相対的な位置によって名づけられた地名で、上の山(ウエノヤマ)、上山(カミヤマ)、上山(ワヤマ)と地方によって呼称の違いがある」という記述が。なぜ室根では「ワヤマ」に定着したのかまではわかりませんでしたが、ともかく「上山」がどんな場所なのか、実際に行ってきました!
難解地名トップ2の
本来は難読地名1位の場所を現地調査し、由来との関係等をご紹介する企画ですが、上山については前述(9ページ下段参照)のとおりですので、逆に由来に意味ありげな、難読2位の「勢返」にも焦点を当ててみました。
室根地域の小字が記載された上の地図を見ると、「上山」は「室根山」という小字と隣接し、室根山麓に位置していることがわかります。
上山まで行くと室根山頂は見えなくなりますが、2位の「勢返」からは山頂が見えます(下写真)。
※撮影時は雲がかかり山頂が見えませんが悪しからず…
行政区としては7区(屋中自治会)と9区(西の沢自治会)にまたがる上山。約200本の桜を愉しめる「蟻塚公園」を有し、室根神社の参道(=室根山登山道)もあります。
ゼンリン地図には3軒の個人宅が記載されており、訪ねてみましたが残念ながらその日は不在。そして3軒目を通過した先は行き止りでした。
「勢返」は7区(屋中自治会)に位置します。その由来について、文献には「農耕用かんがい用水に関係する地名で「セイ」は瀬または、塞の転化と見受けられる。室根山南麓の用水路施設にちなむものと思われる。室根山の鬼退治伝説にもとづく地名とも考えられる」との記載が。実は室根山は「鬼首(おにかべ)山」と呼ばれていた歴史があり、養老2年(718年)に紀州の熊野から神霊を勧請した時に「牟婁峯(むろね)山」と改められたとされています(現在の表記になったのは1175年)。日本武尊(ヤマトタケル)が鬼神を征服したという話など、鬼首山という名称にも諸説ありますが、「勢返」と「鬼退治」との関係とは果たして…!?
嶋津神ノ住窟ハ今ノ牟婁峰山窓ノ口是也
鬼神ト戦給フ時夷神ノ勢強クシテ
度々官軍ノ御勢ヲ返シ賜フ此所ヲ今ハ勢返ト云フ
嶋津神ヲ始メテ視留メ給フ処ヲ今ハ鬼見ヶ原ト云フ
情報を探す中で、上のような記述のある古文書を入手。そこには「嶋津神(≒蝦夷の首領)」の一派が室根山の麓にいたため、官軍が蝦夷征伐に訪れますが、蝦夷側は‘ある場所’で何度もその攻撃の勢いを止めることに成功!その場所を「勢返」と呼ぶようになった、というニュアンスの記載が。
皇朝に反する者を「鬼」と呼ぶ時代があり、蝦夷も「鬼」と言われていたそうなので、勢返の鬼退治伝説とは、日本武尊が制服した「鬼」というよりも、蝦夷と皇朝との戦いに基づく話と考えられそうです。
昨年1300年祭を迎えた室根神社特別大祭も、蝦夷征伐の任についていた大野東人が、蝦夷討伐の祈願所として室根山に紀州熊野大社より神様を勧請した時の再現とされています。
室根にはこうした蝦夷を含めた「鬼退治伝説」に基づく地名、名所(巨石など)が多く、中には蝦夷ではなく、いわゆる「鬼」のパターンの話もあり、歴史ロマンに溢れた地域だということを再認識しました。
地図上に神社のマークがあったのでキョロキョロ…道路からかすかに見える屋根…道なき道をかき分けて進むと……
「彌榮神社」でした!
室根神社特別大祭で神輿が社務所に還る前になぜかご挨拶に立ち寄るという「清水観音杜」。憶測は様々ありますが、真相は分かりませんでした。
標高が書かれた看板があちこちに設置されていました。
<参考文献> ※発行元不明の資料等もあり、全てを記載できないことをご了承ください。
室根村教育委員会(1997)『室根の字地名』
室根大祭協賛会(2013)『室根神社大祭記』
室根村教育委員会(1993)『室根の伝説』
↓実際の誌面ではこのように掲載されております。