(idea 2016年11月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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対談者 藤源寺/地域イノベーター 佐藤良規さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
【小野寺】藤源寺の住職であり地域イノベーター※である佐藤良規さんは、「お寺マルシェ」や「禅ヨガ」などさまざまな取り組みを行っていますが、その活動を始めたきっかけは何ですか?
【佐藤】前からやってみたいという思いはあったんですが、そんな中、釜石で震災に遭い九死に一生を得る体験をしたんです。そこで「人生は自分の生きたいように生きなければもったいない」と思い、とにかく“自分は何をしたら本当に楽しいか”を突き詰めて考えるようになったんです。そう考えた結果、「自分が何か行動を起こしたりすることで、誰かが喜ぶことが一番楽しい」ということに気づいたんです。
【小野寺】それが今のさまざまな活動につながっているんですね。活動をしていく中で、何か新しい考えのようなものは生まれていますか?
藤源寺/地域イノベーター 佐藤 良規 さん
【佐藤】そうですね。今一関では「マルシェ」が聞きなれた言葉になりましたが、僕たちがお寺マルシェを始めた2年前は「マルシェって何ですか?」という状況でした。そのくらい急激に高まってきた文化なんですよね。僕たちがお寺マルシェを始めた頃は本当に手探りでしたが、だんだんと一緒に活動してきた仲間たちが各地に散らばってそれぞれ活動を始めたり、主催したり。その同時多発的な広まり方が、マルシェ文化を急激に高めた一つのきっかけだったんじゃないかと僕は驚きながら喜んでいます。
【小野寺】お寺マルシェをきっかけに出会った人たちが、「私たちも何かやってみよう」となったのは、すごく大きなきっかけですよね。その活動について、地域の方々の反応はいかがでしたか?
2015年に開催したお寺マルシェの様子
【佐藤】そこは結構難しかったです。マルシェ自体はフランス語で、英語ではマーケットと言います。つまり、「市」のことなんですよね。地域を動かしているのは70歳以上の方が多いので、マルシェという言葉自体にもピンとこないし、そういう方をどう巻き込んでいくのかというところが難しかったです。
お寺を会場にする良さは、地域の人たちを自動的に当事者にさせるということです。お寺は地域の人みんなのお寺だと思っているわけですから。それは、お寺というものの“見えざる値打ち”というか、価値を感じましたね。幸運だったのは、地域でお花見会の予定がありその日にマルシェをぶつけられたことですね。お花見とマルシェを同じ場所で同時開催するという精神的に無理のない状態でやってみたら、若い人がお寺や地域に大勢訪れたことで地元の人が驚いたし喜んだんです。その驚きが自信になったんですよね。そして2年目もぜひ一緒にやりましょうと言ってもらえました。
【小野寺】素晴らしいですね。お寺はどちらかというと非日常的な空間ですが、そこでイベントをすることで近づきやすくなりますし、非日常的な空間を日常的な空間に近づけるという効果もありますよね。
もともとお寺は寺子屋をはじめ人が集う場でしたが、今はお葬式やご法事とかに行く場所になってしまっていて、地域から少し離れた存在になってしまっているかと思いますが、それをもう一回近づけたというところで良規さんの発想は大きいですよね。
【小野寺】良規さんは、住職さんになる前は別のことをしたり海外に行ったりしていましたが、その頃は自身のお寺ないし地域をどんな風に見ていましたか?
【佐藤】正直、狭いしつまらないという思いで育ってきました。学生の頃は進学するにつれて、もっと広いところに出たいという気持ちで進路を選んできていたので。最初から地元を愛していたということはありませんでしたし、きっと、お寺を継がなきゃという暗黙のプレッシャーに反発していたのだと思います。
佐藤さんが住職をしている曹洞宗 藤源寺
【小野寺】たぶん、田舎の子は誰しもが暗黙のプレッシャーや手狭さを感じて育ってきていると思います。実家の家業を継ぐとか、土地を守るとか。反発心はありながらも、どこかしら諦めの気持ちもありながら成長してきたと思うんですよ。でも、暗黙のプレッシャーからの解放はすごく大事だと思っていて、やりたいことを自分の地域で勇気をもってやってみたり参加してみることが、暗黙のプレッシャーからの解放になっていくんじゃないかと思います。
【佐藤】そうですね。田舎の根本的な課題の一つだと思うのですが、就職することが唯一無二の選択肢になっているところがありますよね。でも、田舎にはおもしろいものがたくさんあるし、素材は山ほどあると思っています。田舎でしかできない商品をつくれば、売れるという可能性は十分にあると思いますよ。就職すること以外に、小商いとして色々な人が自分のやりたいこと・好きなこと・できることを暮らしにし、それで誰かを喜ばせられればすごいことですよ。
【小野寺】田舎では、どこかに就職することだけが安全という考え方がありますよね。僕が大事だと思うのは「自己実現ができているかどうか」です。自分のしたいことが生活の中でできているか、その生活を一人ひとりが目指すべきだと思うし、それができる地域になるべきだと思っています。
【佐藤】幸運にも自分がそういう仕事を見つけられればそれでいいと思うし。だけども、そうじゃないケースももちろん多いだろうし。そもそも、そういう生き方が可能だと思ってないかもしれませんね。
【小野寺】田舎にくればくるほど職業の選択肢は少なくなるし、自分がやりたい仕事が100%できるわけでもない。でも、その中で少しでも自分の興味がある仕事に触れられているかどうかを見極めてもらいたいし、そこに辿り着くことが自己実現の第一歩だろうなと思っています。
【佐藤】例えば、僕はお葬式をした日がハッピーに終わることもありますよ。僕がお葬式をすることで檀家さんが「安心して故人を見送れた」と感じられれば、「悲しかったけどお葬式してよかった」と思います。何も就職できた、仕事ができたということだけがハッピーなのではなく、自分の務めを果たせた、自分のしたいことができたということで感じるハッピーもあるし、毎日そんなハッピーを感じて生きられるんだということを、たくさんの人と体験していきたいなと思います。
※本来、イノベーターとは「革新者」という意味ですが、佐藤さんは「自分達のまちで楽しく暮らす新しい仕掛けをしていくこと・ひと」 という意味合いで使っています。
┃基本情報
【藤源寺】
住所:〒029-3521 一関市藤沢町保呂羽上野平132
電話:0191-63-2385