(idea 2024年2月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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一関コミュニティFM株式会社 放送局長 塩竃一常 さん
平成24年4月に放送開始した「一関コミュニティFM」パーソナリティ。立ち上げから関わり、平成28年より放送局長に。一関二高卒業後、専門学校で放送を学ぶと、関西のコミュニティ放送パーソナリティへ。複数の放送局で経験を積み、平成19年には帰郷とともに奥州市の「奥州FM放送」の立ち上げにも尽力。昭和53年、一関市生まれ(在住)。
対談者 一関コミュニティFM株式会社 放送局長 塩竃 一常 さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
平成24年4月29日に放送を開始した「FMあすも※1」こと「一関コミュニティFM」。「コミュニティ放送」は超短波(FM)放送による地域密着型メディアとして平成4年1月に制度化※2されたもので、当市においては公設民営の放送局です。開局から間もなく12年を迎え、その存在が「当たり前」になりつつある中、改めて「市内にコミュニティ放送がある」意義を考えてみます。
(2回シリーズの前編)
※1 リスナーから親しまれるFMを目指して愛称を公募。市内外の110人から延べ203点が寄せられた。
※2 平成7年の阪神・淡路大震災直後は急激に事業者数が増加。令和5年12月現在、開局中の事業者数は300を超える。
小野寺 10年一区切りという部分で、「ここまで」と「ここから」を伺っていきたいのですが、まずはここまでの10年間を、立ち上げから関わっている塩竃さんはどう見ていますか?
塩竃 自分の中で、最初の10年は一関に「ラジオのある生活」を定着させたいというのがありまして。一関は盛岡からの電波も仙台からの電波も弱いので、僕が子どもの頃は、ラジオを生活の中で聞いている人はそんなに多くない印象です。そんな地域の全戸にラジオが配られたときに「ラジオって楽しい」とまずは感じてもらいたいと思ってやってきました。
小野寺 塩竃さんはラジオに馴染みがあったんですか?
塩竃 東京の親戚の家に行くと、商店街のお店で流れているのはラジオだったんです。みんなラジオを聞きながら仕事をしていて、交通情報やお天気など、「次は◯時頃にお伝えします」って言うと、本当にその時間に流れてくる。子どもながらにすごく感動して(笑)。そのうちに自分なりの番組表を作ったり、リスナーとして投稿をしたり、ラジオを楽しんできました。
小野寺 確かにラジオって聞き続けることで、時間の把握とか、生活の一部になりますよね。
塩竃 そう。でも聞き続けてもらうことが難しくて。コミュニティFMでありがちなのが、とりあえず方言でしゃべって、地域の小ネタを細かく拾って、地域の良さやコミュニティ放送の意義などを伝える……。もちろんそれも良いんですが、僕からすればそれは赤ちゃんにいきなり「定食」を与えるようなもの(笑)。まずは「おかゆ」として、ラジオの基本的なものから与えるべきで、それも良質なおかゆが良いですよね。「ラジオってこういうものなんだ」というものが実感できることが必要だと
思うんです。
小野寺 なるほど。定着させるために、まずは健全で良質な放送を、と。僕も車で出張に行く際は行く先々のコミュニティ放送を聞くようにしてますが、確かに一関は番組の作り込みとかクオリティが高いなと思います。
塩竃 ありがとうございます。ここまでの10年は、健全なラジオで赤ちゃんリスナー(=市民)を育てると同時に、スタッフも育てなければいけなくて。僕は、大阪のコミュニティ放送などで仕事をしながらラジオの奥深さを知るのに10年はかかったので、新人のスタッフたちも10年だと思っていて。でも僕は10年育ってきたけど、育ててきたわけじゃないので、教え方がわからない。ならやっぱり、基本の、良質なものを背中で見せていくしかないのかな、と。
小野寺 コミュニティ放送には地域のローカルな情報が期待されるけど、実際には一口に地域と言っても幅広で。そのピックアップや、対象とする年代の絞り込みなどは、大変だろうなとは思っていましたが、そのためにも10年かけて基本を作ってきたんですね。
塩竃 「伝える」って、ただ字面を追えば良いものではなくて、ニュアンスや熱の入れ方、タイミングなどを見極めないと、情報を垂れ流しているにすぎなくて。ローカルな情報であればなおさら、地名や用語などたどたどしく読んだ瞬間に「あ、知ってて読んでくれたわけじゃないのね」って、今までの情報が全部崩れ去るじゃないですか(笑)
小野寺 ローカルな情報は漢字や言葉が難しいので、日頃からどれくらい地域を見ているかがわかってしまう(笑)。喋りの上手さ、リアクションの良さではなく、正しさ、分かりやすさとか「伝える努力」は必要ですね。
塩竃 そういう点でも、ようやくスタッフにもいろんな知識や経験がバランスよくついてきたので、いよいよどう地域性を取り上げて、FMあすもの魅力として重ねていけるか、ですね。
小野寺 地域に入っても、あすもが定着してきているなと感じる会話を聞くことがけっこうあります。実際、どれくらいの市民が聴いているものでしょう?
塩竃 指標の一つとして、あすもを聞くことができるアプリ※3のダウンロード数でいくと、約8万1千件ダウンロードされていて、そのうち毎日1回以上アプリを起動するアクティブユーザー数は5万2千件です。
※3 コミュニティFM向けのインターネット配信プラットフォーム「FM++(エフエムプラプラ)」を活用したもので、スマートフォンやパソコンで利用可能。難聴エリア解消を目的とし、インターネットを介して音声や文字放送を受信することができる。
小野寺 そんなにいるんですか!市外の人も多い?
塩竃 一関出身の人が他県で聞いていたり、親戚だったり。あとはコミュニティ放送では珍しくギャラクシー賞※4にエントリーしているので、その関係で聞いてくれる人もいます。
※4 NPO法人放送批評懇談会が日本の放送文化の質的な向上を願い、優秀番組・個人・団体を顕彰するために、1963年に創設。テレビ、ラジオ、CM、報道活動の4部門制で、年間を通して日常的に番組/作品と向きあい、日々の放送の中から同会会員が優秀作品を見つけていくのが特徴。
小野寺 関係人口や交流人口を増やそうなんてよく言われますが、わざわざそういう事業をするより、あすもが十分その機能を果たしてますね。
塩竃 ここまで定着したので、いよいよ地域に「あすもを使ってもらう」という段階です。使われないと意味がないので。
小野寺 行方不明の人やペットの捜索なども流れますよね。関連して、防災マストから流れる情報を、あすもでも流せないのかという声をよく聞きますが。
塩竃 防災マストから流れる情報(原稿)はあすもにも来ていて、熊の出没情報など、実はほとんど読んでるんです。ただ、防災マストと違い、自動的に流れるわけではないので、ずっと聞いていないと気づかない。また、普通に聞いている中で耳に残るような形で伝えていくのが「放送」であり、防災無線などは「通信」。放送と通信は昔は国の部署も異なっていたくらい、似ているようで違うんです。
小野寺 言われてみればそうですね。放送法等で一定の規制を受けている「放送」と、広義では✕(旧ツイッター)なども含む「通信」は意味合いが違う。情報を整理して、偏りなく、わかりやすく伝えるのが「放送」。
塩竃 はい。なのでラジオの中では「放送」として伝えますが、X などの「通信」を活用して、聞き逃した人へのカバーをする、という感じですね。
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