(idea 2024年11月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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本宮・新宮神輿の先着争いが行われてきた8mの御仮宮。
今回からは4mに下げられた(写真は平成30年のもの)。
室根神社総代長(1期3年目)。定年で地元に帰郷した平成25年から総代となり、令和4年より総代長へ(※)。室根地域防犯協会会長や室根まちづくり協議会理事等、地域の各種役を担うほか、保護司としても活動中。昭和26年室根町折壁生まれ(在住)。
※旧折壁村を8区に分け、各区から3人ずつ総代を選出。1期3年で、総代の互選で総代長を選出する。
対談者 室根神社総代長 鈴木英樹さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
閏年(旧暦)の翌年に行われる国の重要無形民俗文化財「室根神社特別大祭※1(以下「特別大祭」)」は、世襲制の「神役」によって1300年以上も続けられてきたとされています。しかし、少子高齢化による世襲制の限界もあり、少しずつその形態は変わり始めています。今年6年ぶりに開催※2されたこの祭りの現状と今後について、客観的に見つめてみました(2回シリーズの後編 前編はコチラ)。
※1 指定を受けたのは「室根神社祭のマツリバ行事」。なお、閏年の翌年に行う祭事が「室根神社特別大祭」であり、いわゆる「例祭」は毎年開催している。
※2 令和6年10月25日~27日の3日間開催
小野寺 前回、総代として長年関わる立場の鈴木さんでも、何が行われているか分からない祭礼部分があるというお話がありました。実際、特別大祭の3日間はどのようにして祭礼が進むんですか?
鈴木 例えば我々総代関係者は、前日から様々な祭事が始まりますが、仮社務所と本殿で同時に行われるものも多いです。同様に、同時進行で各神役がそれぞれの役目で動き出すので、誰かが全体指示を出すようなことはありません。
小野寺 神役や総代として長年関わっている人でも、基本的には自分の持ち場、役割についてしか分からないということ?
鈴木 そう。かつ、基本は口伝であり、代替わりして初めて覚えることなので、例えば急に前任者(父親等)が亡くなった……となれば、大変です。補佐する人はいても、細かな所作などは難しいものがありますよね。
小野寺 その昔の人なら作法として自然にできるような動きが、現代人には難しかったりしますしね。口伝だけでは難しい……。
鈴木 口伝の場合、1回曲がってしまうと、曲がったままになってしまうんです。「本来はそうじゃないのでは?」と指摘しても「いや、前回はこうしていたから」と、曲がったままが「当たり前」になっていく。
小野寺 なるほど……。全体責任者のような人がいないとそうなってしまいますよね。
鈴木 当時の序列に則れば、本宮の大先司がその立場にあるわけですが、それぞれの役の中で世代交代が行われるので、どうしても今の人間関係も影響してしまいますよね。序列では上の神役であっても、世代交代したばかりでは先輩方の方が経験がある(笑)本当は自分たちの立場や立ち位置をもっと理解しなければいけないんだと思います。
小野寺 世襲する際に、そうした「格」も伝わっていなきゃいけないということですよね。
鈴木 それから、口伝でしっかり伝わっていたとしても、時代や生活様式の変化で継承が難しくなってきた部分もあります。例えば「御仮宮」の造営。これも細かな分業制で、やはり世襲制なのですが、部材の調達が大変になってきています。御柱(松)は神社が、横柱(栗)は田茂木集落が準備しますが、昔は集落の人員で行っていた切り出しも、今は森林組合等に委託しているようです。
小野寺 委託となると、金銭的負担が発生しますよね?
鈴木 なので、集落が各戸から徴収する額が増えたりするわけです。また、安全面でも時代の流れがあり、これまでの御仮宮は8mの高さに造営していたんですが、造営を担当する集落の後継世代から「けが人をだしたくない」という声があり、集落内で検討した結果、高さを4mに下げると決めたそうです。
小野寺 時代に合わせて柔軟にはなっているんですね。
鈴木 文化財指定になっているので、国にも確認した結果、問題ないとのこと。きっと文化財指定の要因はやはり「世襲制」の部分なんでしょうね。
小野寺 そうやって時代に合わせた対応をするにあたって会議などがあるんですか?
鈴木 会議は2回しかありません。1回目の会議は「開催するか否か」で、開催するとなれば、2回目は各種神役や関係者を集めた70人規模の顔合わせ会であり、特別大祭斎行の共通認識の確認をする会議でもあります。そうするとそこから各神役や各保存会ならびに各地区が準備を進める。なので基本的には各神役、役割をもった人々・組織に様々な判断が委ねられています。
小野寺 それぞれの役割を持った人が特別大祭の時には集まってくる……という感じですね。
鈴木 そう、その結果、警察に道路使用許可を取るときに、責任者は誰かと問われるんですが「いない」のが実際。でもそれでは許可がとれないので、総代長を申請者にして申請していますが、責任者という意味合いが違うんですよね(笑)
小野寺 大変でしょうけど、いざ始めるとなると自然発生的に動き出す祭りというのは、すごく興味深いです(笑)
鈴木 全国的にも珍しい特殊なお祭りなんです。でも故に、いざ総代となった時に、自分がどういう動きをしたら良いか分からないし、法被を着ていて、見に来た人に特別大祭の歴史等を聞かれて十分に説明できないことを発信されたりしたら……と思うと怖いです。なので我々総代こそしっかり勉強しないといけないんです。
小野寺 地元の人でも特別大祭の謂れを語ることができなくなっているんですね。
鈴木 小学校等でも一応特別大祭に関する学習はあるようですが、深夜や朝に行われる祭事も多いので、子どもたちはもちろん、地域住民も実際に見る部分は限られていて、全体像の理解は難しいんでしょうね。
小野寺 「室根神社特別大祭」の場合、室根と言いながら、千厩や大東、気仙沼や大船渡など、複数地域に神役や関係者がいますし、もっと広域で興味関心を持つ取組が必要なのかもしれません。
鈴木 そうですね、今後人口減少により関係者が減ると、山から神輿を降ろすことも難しくなりますし、担ぎ手の確保が不可欠かと思います。根本的な歴史背景の理解促進は必要ですね。ただそうした理解促進を促す役割の人も少ない、というのが辛いところです。
小野寺 特別大祭という存在は知っていても、これだけ特別な形で成り立っている、継承されているということは知りませんでした。せめてこうした外部からの発信で知ってもらい、見に来てくれる人を増やすことで、必死に世襲してきた神役さんたちには誇りとプライドを持ってもらいたいですね。