(idea 2022年6月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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一関市国際交流協会事務局長 垣内 幸治さん 一関市在住外国籍市民 ベル アイミさん
父親がオーストラリア人、母親が日本人(東京出身)。オーストラリア出身で、平成27年に来日し、宮城県気仙沼市で外国語指導助手(ALT)を務めた後、平成30年から一関市内で働いている。気仙沼市出身の日本人男性と結婚し、現在は花泉町在住。
令和2年2月発足の一関市国際交流協会事務局長。旅行が趣味で、複数の国を訪れる中で気軽に外国人との交流が持てるように。東京生まれ。本業は農家。
対談者 一関市在住 外国籍市民 ベル アイミさん
一関市国際交流協会 事務局長 垣内 幸治さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
令和3年3月末現在、当市には864人の外国籍市民が居住※1しており、うち18歳未満は55人。それは市内の教育機関に通う外国籍の児童生徒が少なからずいるということ。市では「外国人にやさしいまちづくり」「多文化共生社会の地域づくり」を推進していますが、当市での「くらし」を、外国籍市民のみなさんはどのように感じているのでしょうか。そこから見えてくるものとは?(2回シリーズの前編)。
※1 令和4年3月公開の「一関市在住外国人アンケート調査報告書」より。
小野寺 技能実習生含め、市内全域に様々な国出身の外国籍市民が生活しています。アイミさんは日本語がお上手ですが、一関で暮らしていて困ったことはありますか?
アイミ 私はそこまでないけど、あるとすれば医療のことかな。どこの病院に行けば良いか、どのタイミングで行ったら良いかがわからなかった。日本人でも体調崩したりしたら悩むと思うけど、そこに言語の問題が加わるから、ストレスを感じるという話は聞きますね。
小野寺 確かに我々日本人の一関市民でもどこの病院を選んだら良いか悩むのに、そこに言語の問題が加わると大変ですよね。
アイミ オーストラリアだと「GP※2」と呼ばれる子どもの頃から通う総合窓口のような病院があって、自分の身体の歴史もわかっているので、「なんとなくの違和感」を感じたら、まずはそこに行きます。症状によってはそこからもっと具体的な病院をセッティングしてくれるので、一回もどこの病院に行くかで悩んだことはありませんでした。でも日本は最初から具体的に症状を自己判断して、症状に合わせた病院(診療科)に行かなきゃいけない。身体は全部つながってるんですけどね。
※2 一般開業医(General Practitioner-GP)のこと。オーストラリアでは専門医(Specialist)や病院(Hospital)に行く前に、GPを受診することが一般的。
垣内 身体まで縦割りなんですね、日本は。病院で「様子見ましょう」と言われることに対し、外国籍の人からは「何のために行ったのか」と思ってしまうという声も聞きます。
小野寺 日本ではわりとよくある対応なので、慣れてしまっていましたが、確かにそうですね。
垣内 処方薬や治療内容について質問をしたら怪訝そうな顔をされてしまったと驚いていた外国籍の人もいました。日本のお医者さんは崇め奉られているようなところがあるからね(笑)
小野寺 ちなみに通訳さんがいる病院って市内にあります?
垣内 奥州市の国際交流協会※3が病院への通訳ボランティアを派遣していて、連絡すれば一関の病院にも来てくれることになっています。
※3 奥州市国際交流協会。「奥州市医療通訳派遣システム」の運営を行っている。
アイミ ALTをしていた時は、所属する派遣会社が付き添いの人を用意してくれました。通訳までは無理だけど、病院内の案内とか、心のサポートをしてくれて。検査の時には「次はあっちで〇〇をして」など、いろいろ言われますが、けっきょくどこに行って何をしたら良いかわからなくなる(笑)そういう時にシステムを教えてくれる人がいるだけで助かりますね。
小野寺 通訳は無理でも、せめて病院の案内など付き添いの仕組みだけでも欲しいですよね。公立の総合病院などには病院ボランティアという人がいますが、高齢者向けのボランティアであって、外国籍市民は視野に入っていないかもしれない。
アイミ ちなみに、私は7月に出産予定なんですが、病院に行く最初のタイミングがわからなくて。それに、産婦人科なのに、診てくれるけど産めない病院があったり、びっくりしました。
小野寺 僕の知人にも外国籍市民の妊婦さんがいて、お腹が大きくなってきても産科未受診だったんです。結局、僕の妻が病院に連れて行きましたが……。
アイミ システムがわからないことは多いですね。例えばオーストラリアには車検のシステムがなかったので、日本の車検制度に最初は驚きました。
小野寺 車検制度がない国もあるんですね!他にもシステムが違うものってあります?
アイミ 日本在住の外国人ユーチューバーが日本の「あるある」を紹介していて、そこで話題になっていたのがゴミ出し。失敗談のある外国人は多いと思います。私も以前に間違えたことがあり、「日本にはルールがあります」と注意されたんですが、ルールは日本だけでなくそれぞれの国にありますよね(笑)
小野寺 そうですよね(笑)それに、日本の中でも市町村によってゴミ出しのルールは違うし、一概に注意するのではなく、少しそのルールの違いに目を向けた上で、改めてその土地のルールを共有するような姿勢が必要なのかもしれないですね。
アイミ 一関市には「市民生活ガイドブック※4」や「ゴミ分別アプリ」の英訳版があるので、外国籍の人たちにも紹介しましたが、あまり活用されていないのが実態です。同じように、外国籍の人たち向けの避難訓練をしようとしたときも、「長年住んでいるから大丈夫」などの理由であまり集まりませんでした。「もう普通に生活できてるから問題ないよ」と思っているのかもしれないですが、地元の人でもわからないことが多い内容なので……。いざという時のために日頃から読んでおいたり、活用したりすればもう少しスムーズにいくかと思います。
※4 『ICHINOSEKI LIVING GUIDE -市民生活ガイドブック英語版』。2022年度版は市役所ホームページから、 2021年度試作版は「いちのせき電子図書館」でも閲覧可能。
垣内 我が国の行政は申請主義だから、相談に来た人の案件が全てになりがちで、我々含め、外国籍市民の現状が把握できていないのかもしれません。
アイミ そもそも外国籍の人たちには市役所が何をする所かわからないので、「困った時に市役所に行く」という選択肢はないのかもしれませんね。市役所があまり身近ではない国もありますからね。
小野寺 外国籍の人たちが、生活の中で「困った時はここに相談に行く」という場所がないのは課題ですね。国際交流協会も「在住外国人支援センター」なんて名前なら良いのかも(笑)
垣内 今までが交流に偏りすぎてたから、今のニーズに合わせたサポートに重きを置いていく必要はありますよね。
アイミ でも、面識のない人に相談するっていうのは難しいと思いますよ。他人には相談しないというか……。些細なことだと思うと余計に。だからみんなつながりを使って何とかしています。交流イベントでつながりができることもあるし、きっかけは大事だと思います。