※お願い※
記事内の写真や資料は、当情報誌での使用について許可をいただいて掲載しております。
無断での転載などの二次利用はご遠慮ください。
昭和後期頃から東山町内で事務所を構える東山印刷。平成14年の台風6号による洪水で大規模な被害を受け、以後、現住所に事務所兼工場を移転。東山町唯一の印刷会社で、名刺をはじめとするカードサイズの印刷から、企業等で使用する複写伝票・領収書等、地域内での各種イベントチラシ・パンフレットなど、用途に応じてさまざまな印刷物を制作。東山地域で約800年受け継がれる伝統の手漉き和紙「東山和紙」の使用や、町内のイラストレーター(戸田さちえ氏)とコラボした年賀状も印刷するなど地域オリジナルにも挑戦し、夫婦二人三脚でデザインから製版・印刷・仕上げまで、一連の工程を行う。
(idea 2024年12月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
現代表・佐藤己義さんの前職は、「協同組合産直センターひがしやま季節館(以下、東山産直)」の店長でした。東山産直のチラシやパッケージなど、印刷を依頼する側として以前から同社とは関わりがあり、先代に後継者がいなかったことから、「継いでもらえないか」と声をかけられた佐藤さん。
もともと、機械操作やデザインも得意ではありましたが、これまで印刷業とは全く異なる業種で働いていたため迷っていたところ、先代が急逝。「町に一つしかない印刷屋だから、誰かが継がなければ困る」という周りの声もあり、平成18年、同社を継承することとなったのです。
「年賀状の時期になると本当に忙しくてね……」と継いだ当時を振り返る佐藤さん。先代から受け継いだ顧客からの依頼に応えるべく、誰も頼れる人がいない中、印刷機械の修理・メンテナンス・チラシ等のデザインまで独学で身につけました。
多種多様な依頼をこなしていく中で佐藤さんが感じたのは、「印刷業界は時代とともに目まぐるしく変化していく業種」ということでした。「東山町は、企業が多いんです。当初は、複写伝票や領収書等の受注が主力でしたが、国全体としてテレワークの拡大や働き方改革などによるペーパーレス化、令和2年頃から急速に進んだ印鑑廃止の取り組みもあり、今まで紙で印刷されていた伝票類に関しては電子データとしての扱いも多くなりました。これは町内企業も同様で、企業の大量印刷受注は激減していますね」と、業界の厳しい現実に直面しています。
市内の印刷会社では珍しく「和紙」を使用した印刷物を取り扱う同社。先代(約30年前)から町内の小・中学校の卒業証書を「東山和紙」で制作しており、その後、試行錯誤の上「東山和紙を使用した名刺」が誕生すると、「どこか懐かしく、素朴であたたかい」と評判になり、県内外から注文が入り、同社の主力商品となっています。
「印刷物の依頼はホームページ上よりも持ち込みの方が多いんです。時には3行くらいの概要だけ書かれた紙を見せられて『これをチラシにして』と依頼されることもあります」と苦笑いする佐藤さん。「対面で依頼を受けることが多いので、お話しながら地域の人たちの思いを汲み取り、形にしていくことを大切にしています」と続けます。
同社は印刷だけではなく、パソコントラブルの相談で来所する方にも極力対応しており、地元の駆け込み寺のような存在にもなっているそう。「昔はどこの印刷会社も地域密着型でした。今でもうちが地元の印刷物を手掛けられているのは、地元のみなさんと築いてきた信頼関係があるからだと思います。ネット注文印刷にはない強みですね」と佐藤さん。
地元の人を思い浮かべながらつくる唯一無二の印刷物が、これからも温もりを届けます。
現代表の佐藤己義さん。
工場内部の様子。作業は妻のまさえさん。
「東山和紙」を使用した印刷物(婚姻届など)。