毎月さまざまなテーマで地域づくりについて考えていくコラムです。
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第26話(idea 2021年5月号掲載)
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が、暮らしや景気に幅広い影響を及ぼし始めているのは周知の事実ですが、このウイルスが発生していなくても、そうなっていたという考え方もあります。
「地域」には、人が暮らし、生活を送るために必要な‘サービス’が提供されてきました。そもそもは‘地域内で完結する暮らし’があり、食糧はもちろん、生活用品の販売、電気(電器・電機)屋、大工さんなどなど、地域内の商店が地域内に必要なモノ・コト・ヒトを提供していました。しかし、大型店舗や全国区でチェーン展開をする店舗が参入し始め、インターネット等を介した通信販売も普及すると、地元商店の役割は縮小傾向に……。そこに人口減少・高齢化の波が訪れ、さらにコロナ禍における外出自粛……と、畳みかけるように逆境が襲いかかり、地域に根ざしていたはずの商店や事業所は、廃業に追い込まれるなど、危機的な状況になっています。
こうした事態を‘時代の流れ’と思っていて良いかというとそうではなく、地元商店などの廃業は、地域住民の生活に支障をきたすだけでなく、‘地域の特色の損失’に至るのです。「うちの地域には〇〇がある!」と、盆正月の‘御遣い物’や‘お土産’に持たせたりしていたものが、「かつては〇〇があったんだけどね……」という状況に。手に入るもので賄うしかない中で、‘お土産’として、‘全国的に流通しているモノ’を使うのも、なんだか切ない話ですよね(決して全国流通のモノが悪いというわけではありません)。
近年は、インターネット等の情報を通じ、‘目視できる環境’が広がっているために、「どういう姿になりたいか?(どういう地域にしていきたいか?)」と問いかけた時に、自分たちの地域には馴染まない‘都会的な発想’で物事を考える人が多いように感じられます。これでは「地域性」を生み出すのは難しく、地域の「個性」や「特性」は失われてしまいます。
「生活の豊かさ」は、‘インフラが整い便利な暮らしができること’ではなく、‘人のつながり’など「心の豊かさ」なのです。
地域の特色が薄くなりつつある今、地域の特色を「つくろう」と思っても難しいと思っています。「地域の特色」は、‘その地域の成り立ち’と言っても過言ではないからです。だから、いまいまに「特色」と言っても、歴史や積み重ねがない状態では、住民の心に響くものではなく、‘薄っぺらいもの’でしかないはずです。
▲大東町大原の‘御遣い物’として地域に根付いているお菓子の1つ、山二菓子舗の「白羊羹」。小豆ではなく「ささげ豆」を使用するため、一般的な羊羹に比べて白く、さっぱりとした味わい。残念ながら後継者は不在だとか……。
人口減少により大きく地域が変わろうとしている今、‘地域の特色を失わないための取り組み’も地域づくり活動の一環で行われています。イメージしやすいのは、「地元学」や歴史的なポイントをまとめた「地域資源マップ」などでしょう。一方で、なかなか手を出しにくいのが、地域内の「産業」の継承です。それらは家内制手工業であることも多いため、従業員を雇用していることが少なく、その家の誰かが継がなければ失われてしまいます。後継者がいないことが分かっていても、他人の家のことになかなか口出しはしにくいものです。
そんな中、最近では、「継業」という手法により、‘その地域に無くなっては困るもの’を維持する取り組みも始まっています。地域の個店など、家業として営まれている事業を、家族や親族で継続できない場合に、第3者がその技術や手法を引継ぎ、絶やさないようにすることです。
M&A(※)に似ていますが、M&Aは、大企業の場合であり、「継業」は、人的つながりを重視し、生業を受け継ぐ、すなわち‘地域の特色を受け継ぐ’ようなイメージです。
個人の領域に関わることなので、デリケートなことではあるものの、「地域の特色」を失う前に、地域内で話し合ってみてはいかがでしょうか?
※英語のMergers(合併)and Acquisitions(買収)の略。複数の企業を一つの企業に統合したり、ある企業が他の企業の株式や事業を買い取ったりする事。