毎月さまざまなテーマで地域づくりについて考えていくコラムです。

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第56話(idea 2023年11月号掲載)

今月のテーマ

地域運営の落とし穴(40)

「スマート農業」

 農業とは……「十を聞いて一を知る」

 今年の夏は、酷暑という表現が使われるくらい暑かったです。地球温暖化を通り過ぎて地球沸騰化というワードまで飛び出す事態に。その影響は、日常生活に支障をきたすだけでなく農作物も高温障害や雨不足による枯死や収量減少など多大な被害につながっています。季節は秋になり、例年に比べ気温は高いままですが、植物の反応は正しく、稲も収穫時期を迎えました。

 

 当市では、幸い渇水にはならなかったため例年通りの品質、収量があるようですが、我が家の水田には、例年見かけることのない草が繁茂し、刈り取り作業でコンバインにつまって大変でした。田植え後に除草剤散布をして、例年なら抑えられていたはずなのに、それが効かないくらいの天候などの影響があったのか、何かしらの影響で例年生えなかった草が出たのか原因は分からずですが、改めて農業は、自然相手の難しいものだと感じさせられました。中期除草剤を散布するという対策もあったのですが、父親のやり方は、中期剤を導入することがなかったので、その発想が抜けていたという単純なミスであることは、お恥ずかしい話です(笑)。

 

 そんな例年とは違った悪戦苦闘の稲刈りをしながら感じたのは、「スマート農業」のこと。

最近は、スマート農業という言葉を見ることが少なくなったような気がしますが、これはすでに定着したからなのか、難易度が高いため、諦め始めたのかは定かではありません。

 

 スマート農業とは、ロボットやAI(人工知能)、ICT(情報通信技術)、IoT(モノがインターネット経由で通信すること)、などを活用して、超省力、高品質生産をする農業のこと。生産者の減少や高齢化に対し、最新技術を使うことによって体への負担軽減作業効率の向上、かつ高品質の作物を得ていくという新しい時代の農業です。農業に限らず技術革新が進み、まさに近未来的な絵が実現に向かっています。

 

そこでふと思ったのが、数年前、「ITが得意だからスマート農業をやりたい!」というIT技術者がいたこと。たしかにスマート農業にはIT技術者は必要ではあるけれども、IT技術だけ駆使できればスマート農業が成り立つかと言うと……成り立ちません。

 

 新しい技術の導入は、生産過程の一部分にすぎず、稲作の場合は、耕起、田植え、管理、稲刈り、乾燥、精米という、「一連の農作業」を理解していないと技術も導入できないのです。

 

 私も父を亡くしてから試行錯誤を繰り返していますが、肥料設計をどうするか、天候に合わせた管理をどうするか、それこそ先に述べたように初期除草剤だけでなく中期除草剤を導入することやそのタイミング、イモチ病防除やカメムシ防除など、専門的な知識が必要です。技術だけ使えればできるものではない、現場の苦労と一連の行程を知らないとできるものではない……と思いながら、コンバインのつまりと闘っていました(笑)。

つまりを取り除こうとコンバインを覗き込む筆者と、その様子を覗き込むスタッフSの娘たち(稲刈り体験に来ていた)
つまりを取り除こうとコンバインを覗き込む筆者と、その様子を覗き込むスタッフSの娘たち(稲刈り体験に来ていた)

 我が家の場合、最新ではないですが、農業機械は一通りそろっているので、自分で作業をしますが、機械を使いこなすのも「人」であり、生産工程を知らないと機械も使えないし、何も作ることができないのです。

 

 結局、そのIT技術者は、スマート農業をやっている様子がないので、諦めたのかもしれません。「ITが得意だからスマート農業」という安易な考えではなく、モノゴトの本質を捉え、「生産者としてのIT技術者」として、しっかり関わる‘覚悟’を持ってほしいものです。

 

 

 

 今年の田植えの時、我が家の近くの田んぼでは、無人の田植え機が田植えをしているのを見かけました。農業法人のような大規模経営の組織では実証実験が繰り返され、たしかにスマート農業は、身近になりつつあります。

 

 「人」と「技術」がバランスよく調和し、一次産業を支えていくことは、これからの時代、必要なことです。

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