毎月さまざまなテーマで地域づくりについて考えていくコラムです。
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第72話(idea 2025年3月号掲載)
事例から何を学ぶか?学びをどう活かすか?
このコラムをはじめてから72回。「ここまでよく続けてこられた」とは思いながら、これも日々、現場で様々な体験をさせていただいているおかげですね。すべての現場に感謝!
さて、令和6年度も終わりに近づいてきましたが、この時期になると、視察や研修の依頼が多くなる傾向があります。予算の関係であったり、シーズン中は事業が多かったりするため年度終わりに学ぶ、という理由もあるのかもしれません。
我々にも視察の相談がよく来ますが、‘ただ視察に行く’のと‘目的を持って行く’のでは雲泥の差があるわけで、せっかく行くならしっかり学んで欲しいところ。しかし、なかなかそうはならずに、「一関に視察に行きたいけど、どこか良い所ありますか?」とか、「研修のネタ探しをしてるんだけど、どんなこと話せますか?」など、残念な問い合わせがしばしばあるのも現実です。そんな時は、「順序が逆ですよ」と全てお断りすることにしています。なぜならば、‘視察や研修に行くことが目的化’してしまって、‘何を学ぶか’が抜けてしまっているからです。依頼を受ける側にも時間や準備の負担がかかるわけで、「いつでもどうぞ」とは簡単には答えられません。過去に、目的がないまま視察に来られて、「そんなものか」とマイナス評価を受けた経験もあります(これも現場ですね(笑))。
「単純に事例を聞きたい」という声もありますが、たかが事例されど事例です。というのも、事例には生みの苦しみがあり、その事例が生まれるまでのプロセスに価値があるのです。
‘事例を聞く’のであれば、どんなことをやっているのかを聞いて終わりではなく、「なぜ、その事例が生まれ、それまでにどんな難所をクリアしてきたのか?」を学び、「それを聞いた自分たちとは何が違うのか、何を参考にすべきなのか?」を考える。視察や研修を企画する人が、それほどの気持ちを持って研修計画を立て、研修に行く人も、自ら考えて学ぶ気持ちが求められます。
一関市で地域協働体(RMO)に関する仕組みを考え始めたのは、平成19年。平成の大合併のタイミングでRMOの設立を考える自治体があり、先駆的な事例を参考にさせてもらいながら、一関スタイルのRMOを模索してきました。そして、一関市の施策ができあがり、地域協働体を設立してきたのですが、その当時は事例が少なく、「イメージができないから事例を教えてくれ!」という声が多かったです。今ではネット検索すると沢山の事例が出てきますが、当時はRMOという言葉もありませんでした。
しかし、事例に導かれることを危惧してあえて紹介せず、考える時間を多く取ることにしました。時々、ふざけて「一関は鎖国しているから」と言ったりしますが、その意味は、「事例に頼ってしまうと自分たちのRMOをどうするのかを考えなくなる可能性があるから」です。
また、一関市が目指しているRMOと同じ目的をもった事例が少ないこともあります。だから、自分たちで考えるしかないのです。今では自分たちで考えた一関市内の事例が多くあるので、遠くの事例を求めなくても、同じ条件で取り組む事例から、学びや気づきができるようになってきました。
事例の取り扱いを間違えてしまうと、目的とは違った方向に向かうこともあるので注意が必要です。でも、たまには外の世界を見ることも必要ですね。