今回も岩手県に関わる作品を紹介することができました。
「終わった人」 内館牧子(うちだて・まきこ)著(講談社)
◎本の帯書きから
仕事一筋だった田代壮介は定年を迎えて途方に暮れた。「まだ俺は成仏していない」と職探しをするが…。生き甲斐を求め、居場所を探して、惑い、あがき続ける男に再生の時は訪れるのか?
◎ある調査から
・定年後の普段の過ごし方を聞いたところ、 トップ3は、1位は「趣味(習い事として、でない場合)」で44%と約半数。2位は「仕事」で31%、3位は同率で「運動」「テレビを見ている」で22%でした。「趣味」「仕事」「運動」がトップ3は頷けます。
・男女で比較すると、「仕事」や「運動」「テレビを見ている」は男性の方が高く、「パート・アルバイト」や「買い物・ショッピング」「習い事」「友達・知人との交流/おしゃべり」は女性の方が高く、特に「友達・知人との交流/おしゃべり」は10%以上高くなっています。
・定年前の人と定年後の人で比較すると、「趣味」「仕事」「パート・アルバイト」「ごろごろしている」は定年前の人の方が高くなっていましたが、「運動」「ガーデニング・庭や植物の手入れ」は定年後の方が10%以上高い回答率となっています。
・ちなみに、「その他」のフリーアンサーでは「ボランティア活動」が多くなっています。
◎あらすじ
サラリーマンならいつかは必ずやってくる定年をテーマに、会社人間だった男が新しい生き方を求めて試行錯誤する様子を描くとともに、定年後の男心の心憎い描写が話題を呼んだ小説です。
主人公は、63歳で定年を迎え第二の人生がスタートしたばかりの田代壮介。
生家は盛岡市内の大沢川原。北上川と中津川の合流点付近になっています。岩手の名門高校(本では「南部高校」となっています)から東大法学部に進み、国内トップのメガバンクに就職した田代は、最年少の支店長、業務開発部長と、とんとん拍子で昇進していきます。岩手大学教授を務めていた父は「私を超えた」と。
しかし、人生には上り坂、下り坂、そしてまさかの「坂」があるというそうですが、50歳を目前に突然子会社へ出向を命じられます。戻るつもりで必死に働いたが、結局転籍となって社員30人の子会社の専務取締役でサラリーマン人生の幕が閉じるのでした。
夢に見た悠々自適な生活(図書館通いやジム通い、恋)、しかし、満たされず悲しいかな、まだ自分には仕事をする事が生き甲斐だと悟るのでした。
どんな仕事でも良いと面接を受けますが、高学歴•立派な職歴が邪魔をします。そんな時、ひょんな事からIT企業の社長を引き受け、手腕を発揮し始めた矢先に倒産!9000万の借金を抱え込みます。そのほとんどは、社員の退職金を自分の財産を充てて支払ったものでした。身の処し方が潔いではありませんか。
田代は、傷心を慰めるかのように故郷盛岡に行く機会が多くなります。
岩山公園からは目の前にドーンと岩手山がそびえていた。西に岩手山、東に姫神山。その間を北から南へ流れる北上川と著者は自然いっぱいの盛岡を紹介しています。
また、鉈屋町の大慈清水、肴町の「もりおか啄木・賢治青春館」も出てきます。
何よりもいいなあと思った場面は、中津川の鮭の遡上シーン。自分も故郷に戻るのだと決意し、実家に一人残る老母との会話場面には泣かされます。
倒産後、何かとぎくしゃくしていた奥さん「千草さん」との関係ですが、最後はほろりとする場面が用意されていました。
◎最後に
4月に入ると、友人や知人から転任の挨拶状が届き、その中には定年退職の挨拶状もあります。文面を見て、在職最後の日は感無量の心持ちだったことだろう。自分の選んだ仕事を全うするということは、そのようなことだろうなと思うのであります。
今回紹介しました「終わった人」は、そんな時期のタイミングと重なりましたが、実は今年1月に掲載する予定で準備していました。しかし、まさかの「坂」が私の身に……
そんなことで遅れてしまいました。
自己都合により私も退職することになりました。3年という短い期間でしたが仕事を通じてできた多くの人達との交流が良き思い出として残ります。ありがとうございました。
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Hatakeyama (月曜日, 25 4月 2016 17:37)
きわめて常識的でスマートな振舞、様々な分野での造詣の深さ、自分より年上の方がいる安心感、そして目の付け所が光るユーモアセンス。私もある意味『ほとんど終わった人』ですが「幹夫さんがいてくれたらなぁ」と思う場面はこれから度々訪れると思います。どうかお元気で、時々顔を見せに来てください。お世話になりました。
satou (土曜日, 14 5月 2016 22:09)
まさかの「坂」考えさせられます、岩手を舞台にした作品いろいろ紹介していただき興味深かったです。KANOさん何はともあれお疲れ様でした。