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(idea2024年10月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
昭和42年に「大東町家庭バレーボール競技規則」が定められて以降、県内屈指の「バレーボールの町」となっていった旧大東町(以下、大東町)。その背景や歴史を辿りながら「大東町のバレーボール文化」を紐解くべく、前号では昭和30年頃から顕在化した「農夫症問題」と、「その解消という大義名分の元に取り組まれたバレーボール」にスポットをあてながら、平成元年までの歴史を紹介しました。今月号では平成以降と現在進行形の動きを見ていきます。
(記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果です。)
■バレーボール日本一のまち
昭和40年頃から大東町興田地区で普及した「家庭バレーボール大会」は、大東町体育協会連合会主催の「大東町婦人バレーボール大会」へと移り変わり、「人と人、集落と集落を繋ぐ一つのツール」として町を挙げての一大イベントに成長。平成元年には「朝日体育賞」を受賞しました(前号参照)。
この前年、「バレーボール日本一のまちづくり構想」を掲げるに至る大きな節目が。昭和63年、竹下内閣のもと「地方が知恵を出し、中央がこれを財政支援する」という、これまでの発想とは異なる「ふるさと創生事業」が打ち出されました。財政支援は市町村毎に行われ、昭和63年度に2千万円、翌年度に8千万円、合わせて1億円という金額。「自ら考え、自ら行う地域づくり」を目的に、使途は各市町村の自由とされ、市町村の発想に委ねるものでした。
大東町では「ふるさと創生検討委員会」を設置。広報で「ふるさと創生~みんなで活かそう1億円」と題し、「地域づくりにユニークな提言を」と、この事業実施のためのアイディア等を町民から募集、70件の提案が寄せられました。
同委員会では、様々な角度から検討を加え、大東町のふるさと創生事業として、心身ともに健やかで活力ある地域づくりを推進しようと「バレーボール日本一の町」づくりを採択。これを受けた町では、この構想を実現するため、「スポーツ・コミュニティ育成事業」「バレーボール記念館建設事業」「大東町総合運動公園整備事業」の3つの事業を一体的に推進していくのです。
■自治会単位で整備
平成2年、ふるさと創生事業を活用し、行政区単位に100万円を上限とした補助(スポーツ・コミュニティ育成事業)を行うことにした大東町。バレーボールの練習環境整備を推奨されたため、多くの自治会※がバレーボールコートの整備や、備品購入(ネットや支柱、ユニフォーム等)を行いました。当時を知る行政OBの方からは「自治会の多くが夜間のバレーボール練習用に夜間照明を整備したのでは?」という話もあり、この事業が大東町のバレーボール文化に大きく貢献したことが伺えます。なお、自治会館前にバレーボールコートを整備した自治会の中には、駐車場に再整備した自治会もありますが、夜間照明はそのまま活用しているなど、当時の名残を見ることができます。
※ 行政区に補助されたものを自治会で活用
◆大東町に寄せられた「ふるさと創生事業」の活用アイディア
町民から寄せられた70件の提案の中から「バレーボール日本一の町」を目指すこととした大東町。他にも、様々なジャンルの、ユニークな事業案がありましたので、一部ご紹介します。
●産業振興(21件)
淡水魚日本一の里づくり、1億円でいわい牛の購入、日本一の赤松観光、県下アユ釣り大会の開催 他
●保健・医療(1件)
ケア・ハウスの設置
●教育・文化(32件)
町おこしカルチャーセンターの建設、日本一作りカンパニーの設立、サイエンスヒルズ構想 他
●地域アイデンティティ(6件)
桜並木事業、森林整備 他
●その他(8件)
人増やし基金の設定、温泉ボーリングの実施 他
大東町ママさん・パパさんバレーボール大会の
歴史を深堀りしてみた②
昭和41年の興田体育協会主催「第1回家庭バレーボール大会」開催後、大東町全域に家庭バレーボールが広がり、昭和43年に「第1回大東町婦人バレーボール大会(後のママさんバレーボール大会)」が開催されました(前号参照)。今月号では平成以降の歴史を深堀りします!
和暦 | できごと | 補足 | ||
平成元年 |
朝日体育賞(朝日新聞社)受賞 | |||
平成2年 |
ふるさと創生事業「バレーボール日本一の町」構想により各行政区に補助金が。自治会館にバレーコート、照明や備品などが整備される |
補助金でバレーボールコート等を整備し、多くの自治会が夜間練習に力を入れた。ユニフォームを揃えた自治会も多数(それまでは子どものおさがり運動着を着て大会に出場していたママさんたちも多かった)。 | ||
平成4年 |
・「大東町民まつり」のメインイベントとして「24時間バレーボールラリー」開催 ・ママさん/パパさんバレーボール大会に過去最高の268チーム(合計)が参加
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平成5年 |
・「体力つくり国民会議」議長賞受賞 ・「大東町家庭バレーボール競技規則」一部改正 |
「大東町家庭バレーボール競技規則」に則り、8人制で行われてきた大東町のバレーボール大会(令和6年度からは6人制へ)。年代別に出場枠を設け、多世代が参加できる仕組みになっています。時代に合わせ、何度かルール改定も行っており、平成後半になると「ふるさと選手」が参加資格に追加されたり、男女混合ミックスの部が新設されています。 |
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平成6年 |
自治省(当時)の「潤いと活力のあるまちづくり優良地方公共団体自治大臣表彰」における「住民参加のまちづくり」部門で自治大臣賞受賞 | |||
平成7年 |
・「大東町バレーボール記念館」完成 ・第10回全国「大東」サミット開催。ママさんバレーボール大会に合わせて、島根、大阪、静岡の同名市町チームが来町し、バレー交流を行う |
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平成13年 |
参加チーム200チームを下回る | |||
平成18年 |
市町村合併により大会名が「一関市大東町ママさん・パパさんバレーボール大会」に変更
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平成22年 |
・ママさん・パパさんバレーボール大会を2日開催から1日開催に変更 ・参加チーム150チームを下回る |
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平成25年 |
町外に住む「ふるさと選手」を参加資格に追加 | |||
平成27年 |
参加チーム100チームを下回る | |||
平成28年 |
「ママさんの部シニアブロック」を廃止し、「男女混合ミックスの部」を新設 | |||
平成29年 |
・大東町家庭バレーボール大会50回記念一関市大東ママさんパパさんバレーボール大会開催 ・「大東町家庭バレーボール50回大会記念誌『大東町家庭バレーボール半世紀』」を作成 |
平成29年「大東町家庭バレーボール大会(≒ママさんバレーボール大会)」は記念すべき50回目を迎え、記念大会を開催するとともに、記念誌も発行。この時のママさんの出場チーム数は41チームで、5年ぶりに40チーム以上が出場した。 | ||
令和元年 |
台風とコロナ禍のため開催中止となり、令和4年まで中止が続く(連続中止は初めて) | |||
令和5年 |
・5年ぶりに大会開催 ・参加チーム増に向けて大会の在り方を検討 |
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令和6年 | 新たな形のバレーボール大会として再出発(名称変更は無し、18歳以上の居住者を対象) | 参加資格から既婚条件を撤廃し、チーム人数も8人から6人制へ変更。3自治会までの合同チームが可能に! |
▶夜間練習の様子(平成7年)
▶大東町家庭バレーボール競技規則
◀平成29年「大東町家庭バレーボール大会」50回記念の様子
◆「ママさん・パパさんバレーボール大会」要項比較(抜粋)
平成5年度
令和5年度
誰もが気軽に楽しめるバレーボールを通じて、健康の維持増進を図る。
目的
→→30年後→→
バレーボールを通じた地域づくりと、継続的に運動やスポーツに親しむ機会を提供し、健康・体力の保持増進を図ることを目的とする。
町内居住(住民台帳に記載されている者)既婚者。ただし、30歳以上の者については、未婚者でも可。
参加資格
→→30年後→→
①一関市大東町に居住している30歳以上の者、または29歳以下の既婚者。
②大東町外に居住する大東町出身者およびその配偶者をふるさと選手とし、出身自治会のチームに、1チーム2名まで登録することができる。年齢資格は①と同じとする。
①行政区単位のチーム編成(単一行政区でチーム編成が困難な場合は、隣接する行政区から2名以内の補充を認める。ただし、シニアの部については地区体協単位までの編成は認める)
②監督・コーチ各1名、各年代別の正選手8名及び補欠で編成する。
③該当する年代の選手がいない場合には、上の年代より繰り下がることができる。
チーム編成
→→30年後→→
①自治会単位のチーム編成とするが、単一自治会でチーム編成が困難な場合は、同一地区内の他の自治会より2名まで補充可。
②代表者(監督)1名、コーチ1名、選手14名以内で構成する。
③該当の年代選手がいない場合、上の年代より繰り下がることができる。
【ママさん】
30歳未満…2人
30歳以上40歳未満…4人
40歳以上…2人
【パパさん】
30歳未満…1人
30歳以上40歳未満…3人
40歳以上45歳以下…2人
46歳以上…2人
【シニアの部ママさん】
46歳以上…8人
【シニアの部パパさん】
51歳以上…8人
部門別人数
→→30年後→→
【ママさん】
40歳未満…4人
40歳以上…4人
【パパさん】
40歳未満…4人
40歳以上…4人
【シニアの部パパさん】
51歳以上…8人
【ミックスの部】
女子…8人(40歳未満4人/40歳以上4人)
男子…4人以上(51歳以上)
※試合中は男子4、女子4で行う。
※ふるさと選手は出場不可。
平成28年に「シニアの部ママさん」を廃止し「男女混合ミックスの部」新設
◆「ママさん・パパさんバレーボール大会」を応用して……
大東町摺沢の「羽根折沢自治会」が平成27年から開催している「どろんこバレー大会」。
「集落内の休耕田活用と住民の交流」を目的に始めましたが、話題を呼んだことから「もっと広めて多くの人に羽根折沢に来てもらおう」と、翌年から市内外へ発信し、地域内外から参加チームが集まるように(コロナ禍で令和2年から休止)。
開催を望む声もあり、復活に向けて自治会で検討はしているものの、残念ながら復活開催の目途は立っていないようです。
<参考文献・論文(Webサイト)> ※順不同
東磐井郡釘子尋常高等小学校(1940)『岩手県東磐井郡矢越村郷土教育資料』
浜横沢小学校(1940)『浜横沢郷土教育資料』
折壁尋常高等小学校(1940)『東磐井郡折壁村郷土教育資料』
労働省婦人少年局(1966)『最近の農村婦人の実情と問題点 昭和40年農村婦人問題連絡協議会から』
藤井敬三(札幌病院長)(1967)『農村医学14 巻1号 シンポジウムⅠ. 農夫症について』
大淵重敬/野田喜代一/田谷利光/和田野三郎/石川明朗/野寺修(1978)『シンポジウム第3席 日本農村医学会雑誌 第5巻第2号「いわゆる農夫症について」』
松田克治(1979)『近代化農業に要請される体力とその対策』
内田昭夫(千葉大学医学部教授)(1983)『日農医誌33巻4号 昭和58年度厚生科学研究費補助事業報告(総括)農村地域におけるプライマリーヘルスケアの確立に関する研究』
財団法人 笹川スポーツ財団(1999)『日本財団図書館 SPORTS FOR ALL NEWS Vol.33』
杉山章子(2002)『日本医史額雑誌 第48巻第3号 農婦医学の発展―「農夫病」をめぐって 』
池野雅文(コーエイ総合研究所)(2002)『論文 戦後日本農村における新生活運動と集落組織』
大東町(2005) 『大東町史 下巻』
浅野幸子(2008)『関東都市学会年報10号 戦後地域婦人会運動史~全国各地の女性の主体形成活動と“地婦連”の連帯力を基盤として~』
宇ノ木健太(立命館大学政策科学会)(2012)『論文 戦後日本の「近代化」と新生活運動 -新生活運動協会の取り組みを対象として-』
一関市大東支所(2018)『大東町家庭バレーボール半世紀(1968~2017) 大東町家庭バレーボール50回大会記念誌(平成29年度 いちのせき元気な地域づくり事業)』
岩本通弥(2019)『日本の生活改善運動と民俗学 -モダニゼーションと〈日常〉研究』
【調査協力者】
一関市大東町 小山耕一さん
一関市大東町 小崎龍一さん
その他、調査にご協力いただいたみなさま、ありがとうございました!
↓実際の誌面ではこのように掲載されております。