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(idea2019年12月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
前号に続きお届けする「養蚕」の世界。今回は、近年注目されている「シルクの先端技術」についてご紹介します。また、密着取材をさせていただいた養蚕農家・金田清さんから貴重な繭を頂戴し、ある実験にも挑戦しました!
今月もみなさんを「知られざる養蚕の世界」へお連れします。
※記載内容はあくまでもセンター独自調査の結果です。
現在、生糸や絹織物の主な生産国は中国・インド・タイといった国々で、日本の養蚕業・製糸業は極めて厳しい状況となっています。平成17年には生糸や絹織物の輸入が完全に自由化され、安い輸入品との競争がさらに激しくなりました。
農林水産省は国産の生糸を用いて、差別化、ブランド化した絹製品や国産絹織物の利用を消費者にPRし、蚕糸業の振興に取り組んでいます。さらに近年では、絹の主成分となっているフィブロインとセリシンという純度の高いタンパク質に着目し、医療から日常生活まで、私たちの生活に関わる製品を研究開発しています。そこで現在研究開発中の知られざる「蚕産業」厳選3つをご紹介します!
絹糸は生体に良く馴染み、無害であるため、昔から手術用縫合糸の材料として用いられてきました。その生体適合性を活かして、平面やチューブ状に加工した絹を、「医療用ガーゼ」や「人工血管」として利用する研究が進められています。
絹の主成分となっているセリシンには、保湿・美肌効果・老化を防ぐ抗酸化作用などがあり、美容業界では注目の成分といわれています。そのセリシンを繭糸に含有率98%以上の状態で産生する蚕の品種を「セリシンホープ」といい、この蚕を利用した化粧品素材の開発が進められ、実用化されています。
フィブロインやセリシンを加工することで、湿潤状態で強度に優れた絹タンパク質のフィルムを作ることができます。どちらも人体に有害な物質を使用せずに作製することができ、柔軟性や透明性、含水性に優れていることから、床ずれや火傷などの創傷保護材としての応用が期待されています。
その他にも遺伝子組み換え蚕の活用により、蛍光色を発する新しいシルク素材や病院の診断に用いられる診断キットなどの開発も行われています。新たな可能性の広がりを見せる蚕。研究者だけではなく、企業なども注目し始め、「蚕産業」は再び盛り上がりを見せ始めています!
一関・平泉地方で現在も養蚕業を続けている養蚕農家は最盛期に比べるとはるかに少ない8戸(全国では293戸)。仲間がどんどん減る中でも養蚕業を絶やさず守り続けてきた8戸のうち、今回の取材でお会いできた6名の方をご紹介します!
金田清さん(弥栄)
千葉俊作さん(長島)
松平勝男さん(弥栄)
伊藤博夫さん(狐禅寺)
伊藤源一さん(日形)
佐藤盛さん(大原)
ご協力ありがとうございました!
繭1個から取れる糸の長さを皆さんはご存知でしょうか?
蚕の品種にもよりますが、平均で1.3~1.5㎞といわれています。「たった1個の繭から1㎞を超えるような糸が本当に取れるのか?」誰もが抱くその疑問を解決すべく、実際に「繭の糸の長さを測る」実験をしてみました!
※弥栄地区まちづくり協議会の佐々木春枝さん、弥栄市民センターのご協力をいただきました。
①繭を茹でる
繭が乾燥したままでは糸が取れにくいのと、糸口を探すために繭を茹でます。中に蚕がいるせいか、茹でている時は独特の匂いが…
▲ 糸口発見!しっかりと掴みます。
②慎重に糸を巻いてく
繭が乾燥しないうちに糸を箱に巻いていきます…が、予想以上に糸が細く、すぐに切れてしまうため、力加減と集中力が試される作業となります。
▲ 糸があまりにも細いため3個の繭を撚りながら巻いていきます。これを繰糸(そうし/くりいと)といいます。
▲ 1本の糸の細さはなんと0.02㎜だそうです!写真に糸が写っているのが皆さんは見えますか?
③シルク100%の糸
悪戦苦闘しながらも約3時間で糸を巻き取ることができました。繰糸機が普及する前はこれを手作業で行っていたとは…昔の人の技術のすごさを感じます。
◀ 巻き取った糸は光沢のあるシルクの輝きを放っています。
▼ 茹でた繭の中から出てきた蚕の蛹。昔は貴重なタンパク源として重宝されていたとか。
④いざ!計測!
春枝さんが長い時間を掛けて巻いてくれた糸をついに計測!「どうしたら正確に糸を計測できるか?」検討を重ね、下記の方法で計測することに。高鳴る気持ちを抑え、いざチャレンジ!
※ここだけの話…
磐井川の河川敷で計測をしよう考えていた私たち(下記イメージ図参照)。
しかし、糸が想像以上に細かったため、長距離延ばすのは無理と判断…。
⑴6mの長さを測り、ここを往復した回数で糸の長さを算出することに。
▲ 気合だけは十分のスタッフ。いざ計測開始です!
⑵糸が細すぎるため、糸を見失うスタッフ。なかなか計測が進みません…。
▲ 掴んでもすぐに切れてしまう糸。とても繊細なことを体感!
⑶糸が途中で切れてしまうため、計測は想像以上に難航。そして、結果はまさかの…
計測失敗!
残念な結果となりましたが、糸の繊細さと美しさを知ることができ、貴重な体験となりました。
糸の長さは平均値の1.5㎞程度あったと信じましょう!
<取材協力>
養蚕農家の皆さん / 弥栄地区まちづくり協議会事務局 佐々木春枝さん / 弥栄市民センター
<参考文献> 農研機構 (2018)『カイコってすごい虫!』
JAいわて平泉 (2018) 広報こしぇる『美しい伝統産業を支え続けて!』
↓実際の誌面ではこのように掲載されております。