(idea 2024年6月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
※お願い※
記事内の写真や資料は、当情報誌での使用について許可をいただいて掲載しております。
無断での転載などの二次利用はご遠慮ください。
生成AIによって作成された「コンビニで住民票を取得する人」のイメージイラスト。
一関市では生成AIによるチャットボットを全国の自治体に先駆けて市HPに導入した。
令和5年度より、総務部総務課から市長公室政策企画課に配置転換となり、令和5年3月策定の「一関市DX推進計画」に基づくDX推進業務を担う。
※DXの推進においては、最高情報統括責任者(副市長)を本部長とした「一関市DX推進本部会議」が設置されており、同会議と各課との間に入るのがDX推進係。
対談者 一関市 市長公室 政策企画課 DX推進係
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
令和2年12月、政府において「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が決定、令和4年6月には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。このビジョン実現のため、総務省が令和3年12月に策定した「自治体DX推進計画」等を元に、各市区町村が取組を進めています。そんな「DX」の本質について、当市の実情とともに探っていきます(2回シリーズの前編。後編はコチラ)。
小野寺 「DX」こと「デジタルトランスフォーメーション」については、言葉として知ってはいても、具体的には分からないという人が多いと思います。まずは定義を教えてください。
DX推進係 一般的には「進化したIT技術を浸透させることで、人々の生活をより良いものへと変革させるという概念」と説明されますが、当市では「新しい技術や、新しいやり方(方法)を理解してもらい、人々の生活を少しでも便利で快適なものに変えていく取組」と定義し、「一関市DX推進計画」の中に明記しています。
小野寺 IT技術とは限定していないんですね。ちなみに推進計画は市民に向けたものですか?それとも庁内用?
DX推進係 当初は庁内向けでした。庁内のDXを推進することで、職員に余力を生み出し、その余力で、創造的な業務をしていこうというスタンスで作成しましたが、市民生活にも良い影響を及ぼしたいということで、「3年前に比べて便利になったね」と市民が感じることを、目指すべき姿に設定しました。
小野寺 なるほど。計画の2年目にあたりますが、これまでの取組を教えてください。
DX推進係 市民生活に関係する部分としては、庁内窓口に非接触型レジを導入しました。お金の間違いや、職員の負担を減らすための導入です。キャッシュレス決済の機能も搭載できるのですが、市役所窓口でのキャッシュレス決済の需要が不明確なので、キャッシュレス決済にはまだ使用していません。キャッシュレス決済を利用すると、提携業者への手数料が発生し、税金を使うことになるので、キャッシュレス決済導入で恩恵を受ける人の数を考え、費用対効果について研究している状況です。
小野寺 確かに、住民票や戸籍謄本を取りにいく時には、現金を用意していきますね。先入観の問題かもしれませんけど……。
DX推進係 住民票や印鑑登録証明書に関しては、市役所の窓口に来るよりもコンビニ交付※1の方が便利です。市外でも取れますし、待ち時間もなく、6時半から23時まで利用可能です。
※1 マイナンバーカード(利用者証明用電子証明書がついているもの)を利用して、住民票の写しなど各種証明書が全国の指定コンビニ等で取得できるサービス。市内では、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン、ミニストップ、イオン等(マルチコピー機を設置している店舗に限る)。利用時間は6時半から23時まで(イオンは営業時間内)で、12月29日から1月3日を除いて利用可能。
小野寺 そうした市民向けサービスの拡充もDX化の恩恵の一つと考えて良いんでしょうか?
DX推進係 そうですね。DX化は単に「デジタル化」ではなく、仕事のやり方や仕組みを変えていくことで、サービスを提供する側も、受ける側も、お互いに便利になることが大事です。
小野寺 「行かなくても済む市役所」の取組は全国的にも増えていますよね。行政職員も職員数が減っていく中で、住民課題が多様化し、従来の仕組みでは対応できない。行政職員の業務が減り、住民にとっても便利になることがDXの大前提ですね。
DX推進係 「デジタル化」が目的ではなく「トランスフォーメーション(変革)」が重要であり、そのための手段の一つに「デジタルの活用」があります。
小野寺 例えば地域の事例でいくと、情報共有の手段としてアプリやグループウェア※2を活用し始めた自治会が市内にもあります。戸数の減少により家と家の距離があき、回覧板の受け渡しが大変になってきたことで、回覧板の電子化を検討する動きも。
※2 社内やグループ内での業務を効率化し、社員(メンバー)同士のコミュニケーションを円滑にするための機能が組み込まれたソフトウェア。スケジュール管理、掲示板やチャット、ファイル共有等の機能が含まれる。
DX推進係 回覧板については、電子化までいかなくても、回覧の順番を変えることで、届けに行くことが厳しいも楽になるかもしれません。そんな小さな「トランスフォーメーション」が大事だと思います。
小野寺 幼保施設などもまだまだアナログな部分が多いですよね。毎月の小銭も含む集金袋が辛い、とか(笑)
DX推進係 私立や公立の幼保施設は施設間の差が大きいようですね。全て口座引落としの施設もあるようですし、お昼寝コット※3を導入して、お昼寝の環境を変えることで、保護者の負担が大きい「お昼寝布団の持ち帰り」をなくした、など、既存の仕組みを見直して、負担を軽減する必要性は、行政に限らず、身近に様々あると思います。
※3 乳幼児用の簡易ベッド。メッシュなどの通気性の良い素材でできており、敷布団が不要。保護者はタオルケット等を用意するのみで良い。
小野寺 DXを含め仕組みの改革には、トップの意識改革が不可欠なので、「大きなお布団を抱えての送迎にストレスを感じていた親が、保育園のお昼寝環境を変えただけでこんなに楽になりました。園としても個別の布団管理の負担が減り、効率化されました」のように、ユーザー側と事業所側の双方にメリットがある効率化事例で解説されると気づきやすいですね。
DX推進係 効率化を図る際に気を付けたいのが費用対効果です。当市でも数年前までは、多額の費用をかけて「システムを導入する」ということがありましたが、今は3年もすれば新たな技術が誕生し、すぐに「古い技術」になってしまう時代です。今は、いわゆるサブスク※4のように、定額の利用料を支払ってシステムを利用するという考え方に変え、時代やニーズに合わせて、利用するシステムを切り替えられるようにしています。
※4 サブスクリプションの略。月額や年額など定期的に定額料金を支払うことで、一定期間、商品やサービスを利用できる仕組みのこと。
小野寺 デジタル化されても、トランスフォーメーションされなければ意味がないですからね。
DX推進係 現行の行政システムは、戸籍のシステム、住民票のシステム、税のシステム、など、縦割りになっていることが多いです。そこで、横の連携がとれるように、「システムの標準化」と言って、国が仕様書を作り、その仕様書に則って全国どこでも同じシステム・流れで処理できるように、各自治体が令和7年度末までにシステムを改修することになっています。
小野寺 行政窓口での縦割り手続きが変われば、市民だけでなく、職員も楽になりそうですね。
DX推進係 例えば職員の業務量が減り、勤務時間が短くなることは、内部の話に見えて、結果とすれば税金等の使途に関わってくるので、間接的には市民にも還元されていきます。
小野寺 「効率化を図る」ということへの意識を高めることが、どんな分野においても必要なのかもしれませんね。
【後編に続く】