(idea 2018年7月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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対談者 三浦魚店(みうらぎょてん) 店主 三浦勝利(かつとし)さん
聞き手 いちのせき市民活動センター 室根地域担当 佐々木牧恵
民家に続く細い砂利道を演歌を響かせながら登っていく1台のトラック。「三浦魚店」として知られるこのトラックは、室根を中心に45年前から「魚介類販売業」として移動販売を行っている三浦勝利さん(75歳)の5台目の愛車です。今回は現代では貴重な存在となった移動販売のお仕事に同行させていただきました。
■民家の玄関前に停車した三浦さんのトラック。お客さんも三浦さんも特別な挨拶をするわけでもなく、さも当たり前のように商品たちの前へ。商品には値札がついていませんが、お客さんは欲しいものをポンポンと慣れた手つきで取っていきます。
【佐々木】買う物が決まっているんですか?
【お客さん】だいたいどこの家も買う物は決まってるわよね。それに合わせて持ってきてくれるし。
【三浦】お客さんたちの買う物はだいたい把握してるから、その日行く地区に合わせて仕入れるのさ。
【お客さん】もう40年以上のお付き合いだもの。
【佐々木】移動販売はどんな存在ですか?
【お客さん】年寄りには助かってるわよ。足がない人も多いし。毎週楽しみにしてるの。
停車後すぐに商品選び。決まった商品はカウンターへ。
お客さんもリラックスした様子で自然な関係が伺えます。
■三浦さんが移動販売を始めたのは30歳を過ぎた頃。関東での出稼ぎからUターンし、行商をしていた父の存在も影響してか移動販売を思いつきました。まだ車が普及し始めたばかりの頃で冷蔵機能がついたトラックはかなり高価なものでしたが、返済をしながらも子ども5人を育てられるほど、当時は売れ行きが良かったと言います。
三浦魚店 三浦勝利さん
【佐々木】1日に何軒くらい訪問するんですか?
【三浦】昔は1日に30軒くらい行ったもんだけど、今は10数軒。なんせ当時は200軒以上のお客さんがいたからね。今は半分くらいになってしまった。
【佐々木】200軒!当初はどうやってお客さんを開拓していったんですか?
【三浦】始めた頃は1軒1軒挨拶して回ったよ。昔はどこも行けば少しずつでも買ってくれたもんだ。だから家に帰るのは19時とか20時だった。
【佐々木】その当時からのお客さんもいるんですか?
【三浦】そうだね、長い人は45年。お嫁さんたちが代々引き継いで3代目になってる家もある。
【佐々木】当初からのお客さんはだいぶ高齢になってますよね?
【三浦】そう。だからデイサービスに行くようになった人のところなんかはその日時も把握して、家にいる日に訪問曜日を変えたりしてね。
【佐々木】なるほど。お客さんは嬉しいですよね。
【三浦】年金生活の人だと2か月に1回しか支給されないから、ツケ払いにして待ってあげるのさ。足のない人の中にはほぼ全ての買い物をうちで賄ってくれている人もいて、普段持ち歩く商品の他に味噌や醤油、日用品なんかも頼まれれば持っていくんだ。
細い道もなんのその。
トラックの左側を開けると商品がズラリ。
三浦さんが気仙沼から仕入れてパック詰めした海産物たち。
お客さんは50代~80代まで幅広い。
■三浦魚店は月~土曜日の営業ですが、月曜日は気仙沼に仕入れに行き、自宅の加工場で仕入れた魚をさばいてパック詰め、翌日からの移動販売に備えます。火曜日は佐沼に仕入れに行ってからの移動販売。実際に商品を持って動くのは週に4~5日です。現在は室根の上折壁・津谷川の他、藤沢の保呂羽にも向かいます。
【三浦】昔だったら田植え時期は本当によく売れた。今は田植えも機械化で人が集まることもないから関係なくなってしまったね。当時は1軒1軒回らなくてもそういうたまり場に行けばみんな買いに来たんだ。
【佐々木】今はどういう時期が忙しいですか?
【三浦】年末年始は今でも特別なものが売れたり、1年に1回、その時だけは買ってくれる人もいるね。
【佐々木】トラックには常時何種類くらいの商品を?
【三浦】魚だけでも20種くらい、練り物とかの加工品が20種、最近はお菓子とかも積んでるから50~60種はあるかな。
【佐々木】今日は気仙沼の豆腐を買われていたお客さんが多かったようですが、人気の商品は何でしょう?
【三浦】うちは昔から鰻のかば焼きが定番でね。あとはやっぱりカツオ、ビンチョウマグロかな。
【佐々木】1人当たりの購入単価が予想外に高くてびっくりしたんですが、いつもそうなんですか?
【三浦】1人最低でも2千円は買うね。1万~2万円くらいの人もいるし。今のお客さんは値段気にしないで、良いものは良いと買ってくれるし、移動販売だからって高いわけではなく、スーパーより安いものもあるよ。
【佐々木】今日は4軒のお宅訪問に同行させていただきましたが、みなさん「助かっている」「丈夫なうちは来てもらわなきゃ困る」とおっしゃってましたね。
【三浦】こうやって75歳になってもお客さんと会話できることはありがたいよ。お客様は神様だって言うのは本当で、行った先で野菜をもらうこともあるんだ。買ってくれただけでありがたいのにお土産くれるなんてさぁ。
【佐々木】運転が必要なので無理強いはできないですが、今日見ていて、できれば続けて欲しい、もしくは誰か後継者が現れないものかと切実に思ってしまいました。長寿化していく中で、また需要が増えそうなお仕事ですよね。
【三浦】(事前注文制の宅配サービスと異なり)目の前の商品から直接その場で買う物を決めることができるのはお年寄りには嬉しいと思うよ。でも子どもたちにも止められ始めたし、続けられてもあと5年かなぁ。
【佐々木】誰か後継者が現れて欲しい!移動販売で食べていくのは難しいですか?
【三浦】お客さんが減ってるからね。昔は移動販売から帰ってくると、自宅近所の人が家に買いに来てくれたりもしたけど、今は近所の人もいなくなってしまったから。それに演歌をかけて車を走らせていると、音に気付いて買いに来てくれる人もいたけど、今は夜勤の人も増えて、昼間にかかる演歌に苦情がくることもあるよ。
【佐々木】そうでしたか。寂しさを感じてしまいます。ちなみに今でも道路を走っている所に遭遇して手をあげたりすれば、お買い物させてもらえるんですか?
【三浦】もちろん。それに新しく「家にも来てほしい」という連絡をもらえば喜んで行きますよ。
■近年は直接お店に行かずとも買い物ができる仕組みが充実してきましたが、コミュニケーションを楽しみながらの買い物は商いの原点であり、三浦さんのような移動販売のスタイルは原点回帰的な仕事のあり方として、便利な時代だからこそ必要だと感じた時間でした。
┃三浦魚店(みうらぎょてん)
電話:080-1835-1428 / 0191-65-2158
住所:〒029-1211 一関市室根町津谷川字中磯163