(idea 2023年10月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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「一般社団法人久保川イーハトーブ自然再生研究所」主任研究員として久保川流域の生態系保全活動等に取り組む傍ら、岩手県が委嘱する「環境アドバイザー」としても活動中((公財)日本生態系協会による「こども環境管理士」2級資格保有)。「岩手日日新聞」で月2回連載する「里山スケッチ」は来年で10年目。昭和62年東京都生まれ、花泉町在住。
対談者 一般社団法人久保川イーハトーブ自然再生研究所
主任研究員 佐藤 良平さん【後編】
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
約10㎞に及ぶ河川流域規模としては、日本一状態が良いと言われる「里山の景観」と「生物多様性」がまとまっている「久保川イーハトーブ世界」。「自然の質」の「劣化」を食い止め、昭和初頭から昭和40年代頃の景観・生物多様性に再生すべく、各種取組みを行っています。「生物多様性」を守っていくことが私たちの生活にもたらすこととは、いったい何なのでしょうか?。
(2回シリーズの後編 前編はこちら)
小野寺 そもそも佐藤さんは東京都の出身ということですが、なぜ一関に?
佐藤 この地域での自然再生活動は、平成12年に知勝院の千坂げんぽう氏が始めたのですが、早々に東京大学の保全生態学研究室(現・中央大学)に協力要請をしたそうです。同研究室の鷲谷教授※1が実際にこの地を訪れ「これはすごい。すぐに研究員を派遣します」という展開に。当時、私の恩師※2の息子さんが鷲谷教授の研究室におり、紹介を受けたんです。
※1 鷲谷いづみ。日本の生物学者。東京大学大学院農学生命科学研究科元教授(~2015年3月)、中央大学元教授(~2020年3月)。絶滅危惧植物の生態、保全方法を研究しており、外来種の生態系、人間への影響についても先駆的な研究を行う。
※2 須田孫七(故)。民間の昆虫学者。自然科学児童書の監修や執筆を多数手がけ、東京大学総合研究博物館に約10万点の昆虫標本を寄贈し、同研究事業協力者を務めた。
小野寺 もともと自然や生物に携わっていたんですね。
佐藤 子どもの頃から興味があったのですが、東京には自分の求める自然がないので、小学生の頃には地方に住みたいと思っていました。なので岩手のこの地を紹介され、すぐに決断しました。平成23年の4月からここで活動しています。保全生態学研究室の学生も継続して研修に来ていますよ。
小野寺 具体的にはどのような活動に従事しているんですか?
佐藤 活動は多岐にわたりますが、ずっと継続しているのは生物の生息状況調査とウシガエルを中心とした侵略的外来種の防除で、毎年約100か所のため池に捕獲用のカゴをかけています。その中でも特に生物多様性が残されている約20か所を重点的に整備します。ウシガエルやアメリカザリガニなどは1日に4㎞は移動できるので、重点的に保全したい重要なため池にウシガエルが侵入しないよう、防衛ラインを張るイメージです。
小野寺 ウシガエルは生態系にどのような影響を?
佐藤 動くものはなんでも食べようとします。オタマジャクシのうちはブラックバスやライギョなど、他の外来種に食べられてしまうこともありますが、大きくなればほぼ無敵です。
小野寺 最近、ウシガエルが道路にひかれているのを見かけなくなったと思ってたんですが…。
佐藤 ウシガエルを抑えるブラックバスやライギョが増えているということも関係します。ウシガエル、ブラックバス、アメリカザリガニの3者の中で一番強いのはブラックバスです。オタマジャクシもザリガニも食べてしまうので。なので、駆除する順番を間違えると大変なことになるんです。捕食圧の関係で、ブラックバスを先に駆除してしまうと、ウシガエルとアメリカザリガニが爆発的に増えてしまいます。
小野寺 専門的な知識がないと、個人レベルでは難しいですね。
佐藤 外来生物法※3に違反しないようにもしなければいけないので、大変です。例えばオオハンゴンソウなどの特定外来種に指定された植物は、完全に枯れるまで移動させてはいけないんです。刈るタイミングも重要で、種がついてから刈るくらいなら、刈らない方が良い。でないと逆に増やしてしまいます。
※3 特定外来生物による生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害を防止し、生物の多様性の確保、人の生命・身体の保護、農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、国民生活の安定向上に資することを目的とした法律。問題を引き起こす海外起源の外来生物を「特定外来生物」として指定し、その飼養、栽培、保管、運搬、輸入といった取扱いを規制し、特定外来生物の防除等を行うこととしている。
小野寺 重点対策外来種になっているセイタカアワダチソウは、秋の観賞用に輸入されただけあり、秋の風物詩のようにされている側面もありますが、やはり自然界への影響はある?
佐藤 根っこから他の植物の成長を阻害する分泌物を出します。最終的には自分たちも自滅しますが、また出てくる。それからアレチウリの花の蜜は、スズメバチの大好物なので、花が咲く前に刈った方が良いです。
小野寺 ガードレールや道路標識に絡まっているヤツ!専門家の正しい情報を正しく出して全市的に取り組むべきですね。
佐藤 他市町村ですが、生物多様性保全の地域戦略を作っている事例もあります。そうした行政レベルでの取組みがあると、我々も活動しやすいです。
小野寺 一関市も最近は自伐型林業に注力していますが、その先が本当は重要で。どんな森林にしていきたいのか。自伐型林業はそのための手段でしかなくて、ゴールではないのに…。
佐藤 森林も、根が浅い杉から、地中深くまで根をはる広葉樹に戻すことで、土砂崩れなどの自然災害を食い止めることができます。昔に戻すというわけではなく、多様性を高め、昔の人たちの知恵を思い出すことは、様々な課題解決につながる可能性があります。
小野寺 「元に戻す」ことに力を入れるのではなく、「今守れるものは守っていこう」という考え方ですよね。
佐藤 一度失ったものは戻せませんから、これ以上壊さないように、ですね。「生態系サービス」と言って、本来我々は自然から様々な恩恵を受けているんです。それが自然と離れた暮らしになったことで気づけなくなってしまった。人間の口に入る食卓の90%以上は生物です。生物でないのは塩くらいなもの。そういう意識が薄れてますよね。
小野寺 コメがない=スーパーに買いに行く、ですからね。田んぼに意識は向かないか……。
佐藤 幼児教育の中でも、自然の中での学びや経験が感情や身体の発達、健康に結びつくと言われていて。生物多様性が残されている場所では、五感に刺激を与える「色」や「匂い」なども豊富だと思うんです。ちなみに、都会の子どもたちを自然体験で受け入れることもありますが、岩手の子どもと、都会の子どもと、正直ほとんど反応に違いがないんです。
小野寺 岩手の子どもたちも自然に触れていないということ?
佐藤 そう、あまり経験がない。なので、都市一極集中を防ぐために、都会からの受け入れも行う反面、一関の子どもたちにもこの地を知ってもらい、自然が人間の生活にとってかけがえのないものなんだということを、子どものうちから教えていくのがすごく大事だと思っています。
小野寺 田んぼを所有していても田んぼ経験がないという人も増えていますし、子どもはもちろん、50代60代なども改めて関心を持ち、本当の意味で「自然が豊かな一関」と言えるようになりたいものですね。
【2回シリーズの後編 前編はこちら】
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