(idea 2023年8月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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「一関・平泉 黄金の國バルーンクラブ」会員(平成28年~市民ボランティアとして同会の活動に参加)であり、熱気球パイロット(熱気球操縦士技能証2220号)として「黄金の國一関・平泉号」の係留体験時の操縦も行う。昭和40年青森県生まれ。㈱明輝・神奈川工場に就職後、一関工場新設に伴い、当市に定住(現在は同工場加工技術課課長)。
対談者 熱気球パイロット 小岩 俊彦さん【前編】
千田 修一さん【後編】
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
「黄金の國一関・平泉号」の存在により、当市では目にする機会が増えてきた熱気球。さらなる市民認知と、熱気球ファン獲得のため、熱気球パイロットのライセンス(熱気球操縦士技能証※1)を取得した市民が2人います。現状では金銭的負担も大きい中、当市の上空を熱気球で自由飛行すべく、挑戦を続ける2人に、挑戦を決めた背景や、熱気球の魅力・可能性について伺いました。
(2回シリーズの後編 前編はこちら)
小野寺 千田さんは令和2年にライセンスを取得していますが、会の加入時からパイロットを目指していたんですか?
千田 はい。空を飛ぶものへの興味は小さい頃からあって、でもチャンスがないまま、50歳になり……。父親の介護で実家に通っていたある日、帰り道にバルーンフェスの競技飛行にたまたま遭遇したんです。空への興味から、甘い考えで「やってみたいな」と思っていたら、その年のうちに新聞で会員募集の記事を見かけて……。
小野寺 現役で仕事をしながら、よく飛び込みましたね(笑)。
千田 定年後に趣味もなく家にずっといた父親を見て、同じように30年間仕事しかしていない自分に「このままじゃいかん」と思っていたんです。あとは「何でたまにしか飛ばないんだろう。もっと飛べば良いのに」という素朴な疑問がたくさんあったので、関わってみたいという気持ちが大きかったですね。
小野寺 定年後を見据えて、趣味を作るという狙いですか。でも正直、ライセンス取得に係る金額は趣味の域を超えていますよね(笑)。
千田 私や小岩さん※2のように地元で訓練をせず、渡良瀬などで訓練や講習会とセットになった試験だと、多額の費用がかかります。ただ、多くのクラブにはインストラクターがいて、クラブ内で教え合えるので、訓練で使用するガス代等、正味数万円で取れちゃうんですよ。
小野寺 なるほど。現状はクラブ内にインストラクターがいないので、費用がかさんだ、と。
千田 そう、なので、私の次の責務はインストラクターになって、パイロットを育成すること。インストラクターになれば、会の若い世代に指導することができて、もっとライセンスが取得しやすい環境になります。
小野寺 インストラクターの要件というのは?
千田 自由飛行の飛行経験が50時間以上なければいけないなど、諸条件あります。コロナ禍にライセンスを取得したせいで、取得後2年間はほとんど飛べておらず、3年目でようやく飛び始めました。なのでまだ23時間くらいです。頑張れば来年で到達できるか……という数字です。
小野寺 未来のパイロットにとってはありがたい限りですし、一関にパイロット養成の土台を築いたレジェンドとして語り継がないといけませんね(笑)
千田 そもそも、自由飛行がしたくてパイロットを目指したので、お金と時間が許す限りは一関の上空を飛びたいんです。できるだけ一関の上空を飛び、みんなに興味を持ってもらうというのも、私の役目だと思っているので。今まで誰も大会期間以外に一関上空を自由飛行していないんです。
小野寺 パイロットがいなかったこと以外に、これまで一関で自由飛行をする人がいなかった理由は何なのでしょうか?
千田 一関は中規模の平野は至るところにありますが、広大な平野は少ないですよね。熱気球はハンドルもブレーキもないので、広い所がないと着陸できません。なので他地域のパイロットにも「ちょっとここは難しいよ」と尻込みされるくらい、簡単ではないエリアです。
小野寺 熱気球のメッカには向かないということですか?
千田 それが、冬はいけるんですよ(笑)一関の冬って風がとても穏やかな日が多くて、吹雪でない限り、風がないんです。そして積雪量も少ない。熱気球が盛んな秋田県の横手市は積雪が多く、機体を回収に行く車が着陸地点に到達できないので、冬は飛べません。
小野寺 でも熱気球の醍醐味って、パノラマの景色だと思うんですが、冬だと面白味がなさそうなイメージが……。
千田 いや、雪原と周りの山とのコントラストが相まった時にはたまらないですよ。それに熱気球が降下し始めると、雪が下から上に降っているように見えたり、幻想的で、大好きです。
小野寺 それは搭乗してみないと味わえない光景ですね!
千田 一関は着陸地への課題はありますが、冬は風がないことで、狭くても何とか着陸できますし、そういう勘所が掴めてきたので、ようやく他地域のパイロットにも推奨できます。
小野寺 冬の閑散期に、熱気球が上手くさされば面白いですね。
千田 実は当会に熱気球を購入してくれた企業さん※3がいまして。係留体験や自由飛行で使い込んで欲しい、と。なのでこの冬からは一関の上空を、その機体で飛ぶ予定にしています。
※3 「Honda Cars 奥州」。
小野寺 スポンサーですね!それはすごい。
千田 今の子どもたちが中央に出た時、自分の田舎を自慢して欲しいし、自慢できる街でありたいとずっと思っていて。「うちの田舎、冬になると熱気球が飛ぶんだぜ、すげーべ」って。自分がそういうお国自慢ができなかったので、なおさら。
小野寺 市民にも「冬=熱気球=千田さん」という認識が根付いたら、いつか競技に出た時に盛り上がりますね。
千田 一関で大会があるのに、一関のパイロットが出ないのは寂しいですし、いつかは競技にも挑戦したいですね。
小野寺 熱気球に関する法整備※4の動きもあるようですし、熱気球の注目は増しそうですが。
※4 平成30年、熱気球の競技大会が開催されている地域から選出されている議員が中心となり「超党派スカイスポーツ推進議員連盟」が発足。
熱気球だけでなく、パラグライダー、ハンググライダー、模型飛行機など様々なスカイ競技の航空法上の定義等について、検討を行っている。
千田 熱気球は航空機扱いとなってしかるべき※5なんですが、他の航空機のように細かなフライト計画は作れません。決まった方向、時間、高さでの飛行はできない。それに、これまで各地域で築いてきたフライトエリア※6があるので、それを尊重するような法整備であって欲しいと願っています。ぜひみなさんにもご理解をいただきたいです。
※5 熱気球の扱いは世界各国で異なる。日本の「航空法」で定義される「航空機」に熱気球は含まれておらず、現状は「浮遊物」という扱い。
※6 例えば30年以上自由飛行が行われている宮城県北エリアでは「伊豆沼の周囲は高さ○m以上で飛びましょう」「○○のエリアは野鳥の会のみなさんが活動しているので、避けましょう」など、地域の環境や活動、暮らしと共存するために構築してきた約束ごとがあり、それらを踏まえた熱気球の飛行が可能な領域(≒ローカルルール)
一関・平泉黄金の國バルーンクラブ
電話 0191-21-84130 (一関市観光物産課内)