(idea 2018年8月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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対談者 アートセンター「キューブ」 代表 及川 武芳 さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺 浩樹
厳美町の私有地にアートセンター「キューブ」という芸術村を造っている及川武芳さん。その場所で芸術家達が制作活動をしたり、色々な人が参加したり交流ができる場にしたいと、21年間、建物の建設や環境整備などを行ってきました。そんな及川さんに、芸術村構想についてお話を伺いました。
【小野寺】ここに「芸術村をつくりたい」と思ったきっかけはどんなことだったんですか?
アートセンター「キューブ」 代表 及川武芳さん
【及川】最初は、「芸術村を個人で作る」なんて誰だって無理だと思いますよね。私は40年ほど前に、盛岡市の手作り村のような施設を造りたいと思い、それをある町役場に提案したことがあるんです。自分を中心に異業種の方とチームを組み、まちおこしの一貫として地域の工芸を活かした体験や展示、観光産業としてりんごづくりやロッジを建設したりなど、総合的な展開を考えていたんですが、残念ながらその計画はうまく進まなかったんですよね。
【小野寺】それは実現できず残念でしたね。
【及川】私は40歳の時に出身である花泉町に戻ってきたんですが、その頃から買う山を探していました。売りに出されている山々を検討したんですが、条件に合う山がちょうど厳美にあったんです。最初は2町歩、次に5町歩、そして9町歩というように、所有者の方から少しずつ譲ってもらいまして。
【小野寺】それで花泉から厳美に移られたんですね。
【及川】ええ。それに、ここを造るのには私だけではなく色々な方が関わってくれているんです。私はずっと中学校の教員をしていたんですが、その間に色々な素敵な方との出会いがありました。
前に山形県で「国民芸術祭」が開催された時、当時大学院の学生がお手伝いに来ていたんですが、そこで彼のチェーンソーの扱いを見たヨーク大学の先生が彼を気に入っちゃって。そのままヨーク大学に引っ張られ、後にロンドン芸術大学を出ました。
物事や人と関わる中で、思いがけないチャンスに恵まれたり、良い方向に進むこともあるんですね。彼とは今でも繋がっていますし、彼以外にも本当に多様な方に力添えをいただいています。
どこまでできるかはわかりませんが、「自分たちの力でやる」を発想の原点に、周囲の方にも協力をいただきながら、夢見てここまでやってきました。
敷地内にある「山笑亭(さんしょうてい)」は、芸術家達が
寝泊まりできるようにと建設したゲストハウスです。
【小野寺】「夢見て」といいながらも、及川さんは絵を描き、息子さんは陶芸家なので、もうすでに2人の芸術家がいらっしゃるということですよね。
アートセンター「キューブ」という名前には、どんな意味が込められているのでしょうか?
【及川】アートセンター「キューブ」は‘立方体’という捉え方なんです。要するに、多面的に芸術をとらえるということ。だから美術を中心にはしますけれども、将来的には文学とか音楽とか、色々な方々が集える場所にしたいですね。
芸術家たちは皆頑張ろうとしていますが、その中で「現実の経済社会」と「自分の意図する部分」がかみ合った人は良いんです。うまく売れるようになった人とかね。でも私が狙っているのはそういうのではなく、「経済社会に影響されないけど、経済社会とうまく共存できる芸術の世界」というのをつくりたいんです。
斜面に色とりどりの花が咲くバラ園。
陶芸作品を焼く「香月窯」。周囲には沢山の薪が積み重ねられています。
所有の重機で土地整備まで行います。
陶芸家である息子さんのアトリエ。家の中にはたくさんの陶芸作品が展示されています。
【及川】最近、私が心配しているのは「子どもの自然体験」について。魚釣りができない男の子、土に触(さわ)れない子とかよくいますよね。地元でも子どもの農業体験や教育旅行を受け入れていますが、全体的に子ども達の‘自然体験の力’は弱くなってきているように感じます。
子育ての中で、親がそういうことを教える時間が減ってきているのかもしれませんね。父親が釣り竿を手作りし、ミミズを釣り針に刺して見せれば子どももできるようになると思うんですけど。
【小野寺】最近はアウトドアブームもありますが、まず物を買い揃えたりしちゃいますもんね。私が小さい頃は、その辺の竹を切って釣り竿にし、糸と釣り針をつけてやったものですが…。
親子で出かけるといえば、水族館や動物園といった既製の所に行っちゃいますからね。こういう環境があるだけでも全然違うと思います。ここでの子どもの受け入れについては、どのようにお考えですか?
【及川】子どもについては、親子で電気も水道もないツリーハウスのような場所に一泊する体験などを考えています。私は幼稚園の園長をしていたこともあるんですけど、子どもは可能性があってすごくおもしろいんです。なので、ぜひ遊びの仕方を教えたいですね。
【小野寺】実現するのは簡単なことではありませんが、それを造り上げるお手伝いとして色々な方が関わり、プロセスを共有するのが面白いところですよね。
【及川】価値があるかどうかはその人に判断してもらってですが、「一関の宝になるものを皆でつくろう!」という感じですね。また、インスタ映えするような風景をつくりたいですね。周りからは「ダッシュ村」なんて言われてるけど(笑)、関わっていただいている人達は楽しんでくれていると思っています。
【小野寺】ボランティアを募集しているということですが、今まではどんな方がいらっしゃったんですか?
【及川】ボランティアは色々な方が来ますよ。大工さんとか薪割りの方とか。蕎麦畑はある工務店の社長が「蕎麦屋をやりたい」ってことで始めていますし。蕎麦は軽米の韃靼そばとは違う品種なんです。そういうのを紹介する人もいれば、「欲しい」と来る人もいるし。重機の操作を教えれば「ここは私がやる」と言い始めたり。だから色々な方が好き勝手に関わっています。
【小野寺】ある意味、理想ですよね。色々な方が好き勝手に関わるなんて。ここを拠点に常に誰かが出入りしている感じですね。ここには既製品ではない、完成されていないものがあって、皆で作り上げていく面白さがありますよね。
【及川】趣味やテーマ型のコミュニティではなく、自分が育った地域の人達との関わり合いというか、日本古来のコミュニティの在り方・共同体というか。「新しいもの・文化をつくる」という意味では、他にはあまりなく面白いかもしれないですし、それに価値をつけていきたいですね。
手造りの作業小屋。建物を基礎から造っています。
芸術家達が活動の合間に作業を行う蕎麦畑。
作品名「巡礼者の地平線」。このようなオブジェを増やしていきたいとのことです。
┃アートセンター「キューブ」
電話:0191-33-4133
住所:〒021-0101 一関市厳美町字外谷地143-285