(idea 2024年8月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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自分で食べる量を決める「給食バイキング」。座る席も自由で、子どもたちの自主性が自然と育まれる。
社会福祉法人花泉福祉会が展開する幼保連携型認定こども園「はなほこども園(旧:花泉保育園)」の園長(令和6年度より就任)。両親の経営していた同園に事務職で20年以上関わりながら、日本保育協会岩手県支部の事務局長をはじめ、一関市総合計画審議会委員など、様々な組織・会議でも活躍。「地域に開かれた施設」として、保育・教育を行っている。
対談者 はなほこども園 園長 宇津野泉さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
6月号・7月号で「一関市DX推進計画」が目指すものについて考えを深め、「デジタル化(D)」よりも「トランスフォーメーション(X)」が重要であるということを確認しました。では、時代に合わせた「トランスフォーメーション=変革、変換」を行うために、必要な視点とは何なのでしょうか?花泉町にある「はなほこども園(幼保連携型認定こども園)」の実例を基に考えてみます(2回シリーズの前編)。
はなほこども園(幼保連携型認定こども園)HP:https://hanahokodomoen.com/
小野寺 「はなほこども園」の「お昼寝コット」導入事例をDX推進係から聞き※1、変革の背景にあるものを探りに来ました。園庭も施設内も、興味深いものばかりで、驚いています(笑)
※1 情報誌『idea(本誌)』2024年6月号「二言三言」参照
宇津野 平成15年に移転新築したんですが、当時の園庭や施設、組織には課題が多く、子どもたちの大事な人生を培う環境をより良くしたいと思ったんです。
小野寺 組織改革に取り組んだんですか?
宇津野 例えば、そこに貼りだしている付箋※2。職員が書いているんですけど、子どもたちのため、親のため、地域のため、先生たちのためになることをどんどん変えていこうって、そのために自分が感じていることを書き出せるようにしているんです。
※2 会議室(昼食休憩時などにも使用)に常時張り出されており、常に目に触れるようになっている。
小野寺 分野別に整理されているし、出されたものに対しての返事まで書かれてる!
宇津野 職域リーダーたちが整理した上で、赤字で返事を書いています。これが定着するのには時間がかかって、最初は人の目を気にして書きたがらなかったんです。書いたら自分たちが辛い思いをする……って。でも職員間の人間関係が上手くいかないと何をやってもダメだよねって、何回も何回もやっていくうちに、ここまで来ました。
小野寺 これはトランスフォーメーション前の大事な工程ですね。気づきと向き合うというか。
宇津野 システムだけに頼った時代もあったんですが、殺伐としましたね。職員会議もシステムの中だけで「いつまでにこの件に対して発言してください」とか、顔を見ないで情報共有や意見交換もできるんですが、ダメですね。その方が楽だし、ロスもないように見えるんですけど、ゆくゆくを考えると、大きなロスにつながっていくと思うんです。
小野寺 確かに、我々も職員会議で時間が足りなかった部分をグループウェアで埋めようとしますが、文字だけで表情が見えないと、殺伐としていくことがあります(笑)職員間のチームがちゃんとできあがっていないとダメですよね。
宇津野 そうそう。システムも活用はしつつ、やっぱり人との関わり、関係性が大事です。
小野寺 システムを導入したとしても、職員間の気持ちの共有がなければ本末転倒というか…。
宇津野 先進地の視察研修も大事です。保育団体の役員をしているので、中央に行く機会もあり、他県の先生と意見交換をしたり、視察に行く中で、「これ良いな」と思った案件を持ち帰ってくるんです。「お昼寝コット」もその一つ。自分だけでなく、職員も外に出します。例えば横浜で研修があるとしたら、「近くにこんな良い園があるから、行っておいで」って、視察させるんです。そうやって園を変えていくための理解者を作るんです。私が一人で暴走しないように(笑)
小野寺 なるほど、変革の仲間を増やしていくんですね!
宇津野 子どもたちと親御さんたちにプラスになるであろうものは可能な限り実行しようと思っていて、そのアンテナに引っかかった案件を、いかに自分の園に取り入れるか、そこをいつも考えています。
小野寺 そうやって取り入れたものが他にもありますか?
宇津野 10年以上前に給食をバイキング形式※3にしました。少ししか食べられない子に無理に同じ量を出すのではなく、自分で「少し」「大盛り」って調整できた方が良いねって。当園はご飯も年長児が当番制で炊くんです。自分たちがといだお米を、ホールにある大きな釜で炊くので、お昼が近くなると、お米の炊ける良い匂いがしてくるんです。家ではなかなかやらないと思うので、これも生きる力だなって。お母さんに何かあった時にお米くらい炊ければ良いなって。
※3 ホールと給食室がつながっており、3~5歳児は給食の時間になるとおぼんをもって並び、好きな量を盛り付ける。給食室はガラス張りになっており、調理の様子を見ることができる。
小野寺 そうした発想、ちょっとしたことの気づきが積み重なってるんですね。「園庭開放※4」も、発想の転換だなぁと思うんですが、備品管理への不安などはないんですか?
※4 園庭を一般開放しており、在籍園児以外の家庭も自由に遊ぶことができる。月~土曜日(開園日)は9時~17時、日・祝日(休園日)は日没まで利用可。
宇津野 壊れたら壊れたで良いんじゃないですか?子どもが使って壊れるのは仕方ないし、なくなったら補充すれば良いじゃないですか(笑)
小野寺 それ!その考え方がみんなできなくて、ブレーキがかかるんですよ(笑)
宇津野 防犯カメラで抑止力は持たせているので、その経費はかかりますが、使用できる環境や物は使った方が良いと思うので、「子どもの遊び場の確保」として、休日の園庭開放は他施設でもやった方が良いとずっと言い続けています。
小野寺 病児保育も今年度から展開していますが、導入の負担はなかったですか?
宇津野 すでにある環境を活用するだけですから、負担とは考えていません。そもそも看護師が2人いるので、システムや職員の配置を少し変えるだけです。これから子どもはどんどん減っていく中で、マンパワーを余すことなくより充実した事業へと展開していきたいという話を職員たちにもした上で、やると言ってくれたから導入しました。このように新たな事業に着手する場合、必ず職員に伺いを立て、検討する期間を設けています。
小野寺 今ある環境を活かす、活かさない方がもったいない、そういう発想ですね。
宇津野 英語教室や体育教室をカリキュラムとして3~5歳児クラスに取り入れていますが、希望のご家庭には、課外活動として、施設内の一角で個別レッスン(別料金)を受けられるようにしているんです。これもお母さんたちの「習い事をさせたいけど、送迎などが大変」という声があったので、「じゃあ、園の場所を使う?」という軽い発想からです(笑)同様にピアノ教室も課外活動のみで、希望のご家庭に向けて展開しています。
小野寺 確かにニーズはありますよね。その「軽い発想」を具現化できるのも、根本的な「組織力」の賜物だと思います。
【次号へ続く】