(idea 2024年9月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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年長児が和太鼓に取り組む同園。4月に開催する「はなほこどもまつり」では、前年度の卒園児が太鼓を披露。
各種行事には卒園児や地域住民を積極的に巻き込んでいる。
社会福祉法人花泉福祉会が展開する幼保連携型認定こども園「はなほこども園(旧:花泉保育園)」の園長(令和6年度より就任)。両親の経営していた同園に事務職で20年以上関わりながら、日本保育協会岩手県支部の事務局長をはじめ、一関市総合計画審議会委員など、様々な組織・会議でも活躍。「地域に開かれた施設」として、保育・教育を行っている。
対談者 はなほこども園 園長 宇津野泉さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
「DX成功事例〇選」など、DX化の先進事例がもてはやされる昨今。それらに共通するのは、単なる「デジタル化」ではないという点です。当市内にもDX化に取り組む企業・組織が増えていますが、時代に合わせた「トランスフォーメーション=変革、変換」を行うために必要な視点とは何なのか、花泉町にある「はなほこども園(幼保連携型認定こども園)」の実例を基に考えます(2回シリーズの後編。前編はコチラ!)
はなほこども園(幼保連携型認定こども園)HP:https://hanahokodomoen.com/
小野寺 組織改革の取組や様々な発想・気づきを具現化した事例をお聞きしてきましたが※1、コロナ禍で考え直したり、転機になったことはありますか?
※1 情報誌『idea(本誌)』2024年8月号「二言三言」参照
宇津野 コロナ禍で改めて感じたのは、人と人との交流、地域との交流、異年齢との交流、そういう交流の機会は減らすべきではなかったなぁということ。コロナ禍では様々な感染予防対策をしたものの、結果として、保育現場にいる私個人としては「子どもの成長にとってはマイナスだった」と感じたんです。人との関わり、地域の高齢者含めた異年齢の方たちとの関わりによって、自分は大事にされているんだと実感できる経験をもっともっと増やしたいなと思い、職員ともその思いを共有し、重点的な取組視点にしています。
小野寺 交流機会の在り方を改めて見つめ直したんですか。
宇津野 例えば行事の持ち方について。簡素化により業務が省力になり、「負担が減り、余裕が出来て楽になった。良かったね」というだけで終わってはならないと焦りました。改めて教育・保育的「ねらい」から新たなアプローチを検討しつつ、「保護者支援」の観点からも、どのように参加してもらうことが良いのか練り直すように努め、様々な発見がありました。
小野寺 「簡素化=良くなる」ではないし、簡素化すると視点まで簡素化してしまいますよね。
宇津野 そう。実は5類に移行する直前の令和5年4月に、大々的なイベントをしたんです。法人設立50周年の事業がコロナ禍でできていなかったので、記念事業をすることにしたんですが、従来であれば、関係者を招いての式典・会食というもの。そうではなく、みんなを集め、楽しめるものにすることで、地域に貢献しようと企画し、法人役員の理解もあり実現しました。
関係機関や地域住民、卒園児などにもお知らせを出したことで、500人近く集まったんです。5類移行の前なので、来場者名簿を取るなど、感染拡大予防もしたので、手間はかかりましたが、役員・職員含め、みんなが「楽しかった」と言ってくれて。このような直接関わり合える機会が必要だと実感できました。
小野寺 従来の式典形式から「おまつり」スタイルにするというのも、ある意味トランスフォーメーションですよね。
宇津野 やるのであれば、一部の人たちの自己満足ではなく、いかにその時間を多くの人と共有できるか、だと思うんです。もしかしたら、この機会を逃せば、もう二度と関わることができない人もいるかもしれない。その御縁などに感謝して、いかに充実して楽しめるか……。
小野寺 今、そういうことを言ってくれる人がいないんですよね。「今日という時間、50周年という機会はもう2度とないよ。だからできるベストを尽くそう」っていう考え方を。集落の集まりなども「コロナ禍でやめたら楽になったね」っていう声が多いですが、「今」という「今しかない時間」も失っているということですね。
宇津野 「今しかない時間」と言えば、当園では毎月行うお誕生会に、当該園児の保護者が参加できるんです。「こんなに大きくなったのね」と感動する時間を、職員だけで終わらせるのはもったいないなって。最初は誕生会のみ見てもらってましたが、今は給食バイキングにも参加できるようにしたんです。園児たちと一緒におぼんを持って並んでもらってます(笑)
小野寺 確かに、自分の子どもが園児だった頃を振り返ってみると、「もっと見たかった」と思いますよね。運動会などの行事だけじゃなく、そういう日常の一コマを。でも先生たちからしたら、保護者が来るというのは、余計な気を使ったりして、大変じゃないですか?
宇津野 「保護者に園の生活を見てもらった方が楽だよね」と話しています。園での姿を見て理解してもらえれば、細やかに知らせる労力が少なくなるし、保護者の支援にもなるし。「見せる保育」をしようと思うと辛いの。普段通りの、日常の中に入ってもらうからこそ良い、と。
小野寺 やっぱりちょっとした考え方の違いですね。前回お聞きした「お米とぎ当番」も、先生たちにとっては負担が増えるのでは?と思ってしまいますが。
宇津野 「今日は私が当番!」と張り切っている「やりたい気持ちの子」と一緒に行うので、負担という感覚はないです。給食当番は実情に応じて柔軟に変えていて、なるべく外で遊ばせたい時期は、外遊びの時間を優先して、当番は置かなかったり。
小野寺 これは大人、職場にも通じる話ですね。「やる気、モチベーションを上げましょう」なんてキャッチフレーズのように言うけど、モチベーションが上がるような進め方、些細な目標を作るようなことすらしていなかったり。目標を作らせたら作らせたで「そんなのできるか」って抑えてみたり……(笑)
宇津野 みんなでアイディアを出して、みんなで創り上げていこうという意欲を持てる環境づくりは大事だと思っています。みんな理屈では分かってるんですよ、良くするためにはPDCAサイクル※2が大事って。やる気があれば、実践は負担ではないはずです。
※2 Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を取ったもので、業務・事業改善等に取り組むためのフレームワーク。P→D→C→Aと、4つのステップを順番に繰り返すことで、継続的な業務・事業改善につなげていくもの。
小野寺 そう、理屈は分かっているのに、やる気と、「やれる環境」がない。その環境を作ってあげることが大事ですね。
宇津野 50周年記念事業が好評だったので、4月に春祭りとして続けていくことにしたんです。続ける上で「職員も共に楽しむ」ということを目標にして、今年は楽しみました。
小野寺 そういう「想い」をみんなで共有できているっていうのが大事なことですね。
宇津野 人間関係が良好で、充実感や達成感を感じられ、仲間意識や助け合う、思いやる関係性があってはじめて、「変革」なんじゃないですか?
小野寺 まさに。「底辺のところがないと何も始まらない」ということが、よく分かりました。