(idea 2022年5月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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土地家屋調査士・測量士 小岩邦弘さん
土地家屋調査士小岩邦弘事務所代表で、不動産賃貸業・測量設計を行う(有)アラヤ産業の代表取締役。日本大学工学部土木工学科卒業後、東京のディベロッパーや舗装業者を経て平成元年にUターン。実家の一関コンクリート工業所(平成14年に閉業)と(有)アラヤ産業を継承しつつ、土地家屋調査士事務所を開業。現一関商工会議所会頭。昭和37年生まれ。
対談者 土地家屋調査士・測量士 小岩邦弘さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
所有者が亡くなった時などに、慌ててその実態把握をすることが多い土地・建物の所有権や登記名義人。「相続」しても「変更登記」をせぬまま放置されるケースが多く、「所有者不明土地」が問題視されてきました。そうした実態を受け、令和6年4月から「相続登記」が義務化され、法改正以前から相続登記をしていない不動産についても適用されます。果たして「所有者不明土地」の実態とは?
小野寺 今年2月に当市で初めて行われた特定空家の行政代執行は大きな注目を集めましたが、土地家屋調査士の業界にもそうした事案はあるものですか?
小岩 行政代執行ではないですが、我々の業界で今一番の問題が「所有者不明土地」。一関にも少なからずあるんです。簡単に言えば、相続していない、していても登記されていない土地。名義人の住所変更がされていない土地もあります。
小野寺 どのような時に問題になってくるんでしょうか。
小岩 土地家屋調査士は「筆界確認」と言って、土地の法的な境界を明確にさせることが仕事なのですが、依頼者の隣接地の名義人に確認をとらなければいけません。しかし、変更登記がされていなかったり、住所変更がされていないと、所有者を見つけ出すまでにかなりの時間と費用がかかってしまいます※1。
※1 職務上権限として土地家屋調査士が請求できるものにも限度があり、固定資産税の納付者の情報等は請求できないため、登記簿で所有者が確認できない時には、周辺住民への聞き込みや、お寺の過去帳などを遡ることもある。海外移住者とやりとりすることも。
小野寺 土地の購入や処分を諦めざるを得ないケースも出てくるということですよね。
小岩 依頼者が個人だと諦めることもありますが、公共事業の対象地だと諦めることも簡単ではありません。例えばこの問題が大きくなったのは東日本大震災。震災復興の公共事業をしようにも所有者が見つからず、事業が大きく遅れたという経過があります。これを機に様々な法改正が進められ、令和6年からは相続登記や住所変更が義務化され、手続きをしないと過料※2が科せられます。
※2 正当な理由なく登記申請を怠ったときは、10万円以下の過料が科される。
小野寺 実は我が家でも最近になって曾祖父のまま名義が止まっている田んぼの道路が発覚しました。それを考えると他人事ではありませんね。
小岩 「相続人いなければ国とか市がもらうでしょ」と言って放置している人も多いですが、現行の法律にそうした対応はありません。「相続土地国庫帰属法」という法律が令和5年4月に施行予定ではありますが、要件が厳しいので、期待しすぎないように気を付けて欲しいです。
小野寺 相続したくない、相続する人がいない土地などを国がもらってくれるということですか?
小岩 買い取ってくれるわけではありません。逆に10年分の土地管理費相当額の負担金※3を納付して、国に管理してもらうという流れです。国庫に帰属したら、普通財産として国が処分することもあるようです。
※3 現状の国有地の標準的な管理費用(10年)は、粗放的な管理で足りる原野約20万円、市街地の宅地(200㎡)約80万円。
小野寺 「山を手放したい」という声はよく耳にしますが、森林も対象なのでしょうか?
小岩 対象ではありますが「境界が明らかではない土地」「帰属又は範囲について争いがある土地」は却下要件とされているので、我々土地家屋調査士による筆界確認調査測量が必要。その時に先ほどお話したような所有者不明土地が隣接地だった場合、簡単にはいかないですね。
小野寺 なるほど。確かにハードルは高そうですが、国として救済措置を立てたということ。小岩さんたちの立場からはどう見ていますか?
小岩 管理されずに放置されるよりは良いと思います。本来、土地の管理責任は所有者にあり、土地が原因で第3者に被害を与えた場合には損害賠償の対象になるわけですから。
小野寺 「どうせ俺の代で終わりだからさ」という人もいますが、「終わり」で終わらないんですよね。本人が死んでも土地は残りますから、責任放棄みたいなもの。
小岩 相続税の対象になる資産価値がある土地だと、それなりに意識している傾向がありますが、評価額の低い土地や固定資産税の通知が来ないような土地だと、軽視されがちですよね。
小野寺 固定資産税の通知が来ない土地もあるんですか?
小岩 固定資産税の通知書はあくまでも税金を納めるための通知なので、土地の場合、保安林等の非課税の土地や、課税標準額の合計が30万円未満だと課税されず、通知書も届きません。
小野寺 そうすると、土地を所有している自覚がない人がいる可能性がある、と。
小岩 よくあるのが、共有の道路や共有林※4、いわゆる旧墓の土地など。昭和初期から名義人が変わっていないことがあります。ちなみに相続人は最後の登記名義人が亡くなった時点での民法が適用になるので、昭和22年5月2日以前に亡くなられた人が最後だと「家督相続」で相続人が決まります。
※4 共有名義不動産は共有資産代表者にのみ納税通知書が送付される。道路は非課税になることも多く、その場合は納税通知書に記載されない。
小野寺 最後の名義人が亡くなった年によって適用になる相続制度が異なるんですね。家督相続は相続人がはっきりしている半面、家督で全ての情報が止まってしまう。家督しか知らない財産があったから、引き継ぐ前に家督が亡くなれば、抜け漏れが発生してしまう……。
小岩 それはありますね。今は「法定相続」で、権利者が複数いますし、親子間でちゃんと共有をして欲しい。自分の土地がどこにあるのか、現在の名義人が亡くなったら誰がどのように管理していくべきなのか※5。管理できる人がいないのであれば、早めに処分を考えるべきです。
※5 「家族信託」という仕組み(財産管理法)も有効。
小野寺 まずは登記がどこまでされているか確認すべきですね。
小岩 そう、固定資産税の通知だけでなく「資産証明※6」を取ると良いかもしれません。同一家族であれば、父親や祖父の分を取ることもできますので。
※6 市役所税務課で取得可能(一名義につき手数料300円)。
小野寺 その上で相続されていない土地があれば登記する、と。
小岩 登記費用がかかるので、管理はしても登記はしないという人がいますが、義務化によって令和9年4月までに登記しないと結局過料がかかりますよ。住所変更もぜひお願いします。
小野寺 相続権利者が増えるほど費用もかさむので、早いうちに動くべきですね。これも「イエを守る」ことの一つかと。