(idea 2015年7月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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対談者 一般社団法人一関市医師会 会長 小野寺威夫 さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
【センター長】先生は小野寺内科医循環器科医院の院長であり、一関市医師会の会長を務めています。一関市医師会は市内のお医者さん方の組織と認識していますが、具体的にはどのような活動をされているのでしょうか。
【医師会長】私たち医師会は、市民の皆様の健康を守り適切な治療を受けられる態勢を作る活動をしています。具体的には、日常の診療、祝祭日の在宅当番医制、平日の小児成人夜間救急に関わる救急医療があります。それから、乳幼児健診、特定健診、後期高齢者健診、各種企業の健診業務、インフルエンザを始めとする予防接種、乳幼児予防接種などの各種予防接種業務、幼稚園や小・中学校の園医・学校医業務。さらには、各種企業の産業医や市民を対象とした講演会活動の開催などがあります。
【センター長】個々の医院の業務以外にも組織としての業務があり、医師会としてチームを作って活動をしていて業務的にはかなりのボリュームですね。
【医師会長】そうですね。年々増えています。予防接種の数も増えてきています。50人以上の従業員がいる企業には産業医を付ける義務があり、それに満たない企業には一関地域産業保健センターが対応しますが、そこにも医師会が協力して事後指導のため各企業に個別に赴くこともあります。
【センター長】お医者さんは日ごろ身近な存在ですが、医師会の組織は遠い存在となってしまいがちです。しかし、先生のお話から医師会の活動は目に見えていて身近にあると感じました。ところで、医師会として抱えている課題は何かあるのでしょうか。
【医師会長】一つは、全国的な問題ですが地方の医師不足です。医師が都会に集中しています。そして、看護師不足もあります。また、開業医は新規開業が増えておらず、勤務医も医師不足で高齢化しています。特に磐井病院のような基幹病院では研修医の数が不足していて、院長や副院長クラスも当直を担っていて、かなりきつい状況です。
二つは、救急業務の増加です。それが急変や重症であれば受けるのは当然ですが、入院を伴うような重症ではなく軽症な患者が多いというのが問題です。また、確信犯的な場合で、昼働いているから夜に受診するという、いわゆるコンビニ受診というものです。空いてて良かった24時間やっているという感覚なのでしょうか。夜間の外来はあくまでも緊急の場合であり、空いているから来る所では無いのです。
【センター長】地方の医師不足は聞いてはいましたが、そのような実情を初めて聞きました。市民一人ひとりの資質が問われていますね。
【医師会長】それが重要なことです。今は地域医療が崩壊しかけてきている所が多くなっています。なぜかというと、楽しみも少ない所の病院で医師が激務を強いられ、いろいろな要求も多く何か事が起これば訴訟となります。こんなことではとてもやっていけないとまちを去る医師が少なからずいます。医師も人間ですので、その土地になじみ地域の住民と接することで長く住み着くようになります。働き甲斐があるわけです。今そのようなことに気づき、自分達の医療は自分達で守るという動きも出てきました。ボランティアグループが協力して、例えば、勤務医の独身医師達に手作り弁当を届けるなど居心地の良い環境を作っていこうと成功している所もあります。
【センター長】先生方が良い環境の下で働いていただければ、その地域の医療環境も良くなるわけですね。
【医師会長】そうですね。県立千厩病院では「朝顔のたね」というボランティアグループがあり、病院の現状を理解してグループの方から正しい受診の仕方を呼び掛けています。病院へは不安で受診しに来るので時間外が全部ダメというわけではないのですが、少しでも不要不急の受診は避けてもらうことで、重症患者へ掛ける手が不足しないようになります。
【センター長】地域医療は地域づくりには欠かせないキーワードですが、うまく形成していくことは難しいものだと思います。千厩病院の例は地域医療の理想の姿かと思います。総合病院だけでなく小さな病院でも病院を支えてくれる人達が増えてくることが理想ですが、個人病院でもそのような例はあるのでしょうか。
【医師会長】個人病院はまだだと思いますが、一関病院には在宅緩和ケアIZAKのリボンの会、磐井病院にばっきゃの会というボランティアグループがあります。
【センター長】地域の中で、地域の医療の現状や適正利用などを話し合うグループがあると病院と地域との連携がうまくいくのかと思いました。
【医師会長】昨年11月の「地域医療を守り育てる市民フォーラム」では各病院の窮状をお話ししました。その中で適正受診の訴えをしたのですが、そこに来た人は状況を理解している人達で、一番知ってほしい人はなかなか来てくれません。そこが一番頭の痛い事です。そのような人に限って不要不急の受診をしてしまう傾向があります。
【センター長】全国的に医師不足と言われていますが、解消のために実施していることはあるのでしょうか。
【医師会長】地方に残る医師を確保するために医学部の定員の中で地方枠を作り、その枠の学生を援助するシステムを作っています。卒業後何年か岩手県などで働いてもらうことを条件に、それまで提供したお金は返済しないで良いようにしています。現在、一関市では3人を支援しています。卒業後は県内の公的病院、中核病院で仕事をしてもらう制度です。
今度、仙台市に新医学部が作られますが、根本的な解決にはならないと考えます。そのことで東北から医師たちが新医学部の指導者に入り、かえって医師不足が加速する恐れがあります。
【センター長】最後になりますが、市民が明るく元気に生き生きと暮らすためにはどのようなことが必要でしょうか。
【医師会長】これはみんなが思い願うことです。元気で長生きしてコロっと死にたい。そのためにはそれなりの代償を払わなければなりません。常日ごろから食生活、生活、たばこ、適度のアルコール、適度の運動などを心がけること、地域的には脳卒中が多いので普段から塩分を取り過ぎない様に心がけることが大切です。食生活は習慣ですから小さいうちにきちんとした食生活を教えなければ将来に影響が出てきます。そのような積み重ねが予防医学となります。病気になってからではなく病気にならないように普段から心がける、それが明るく生き生きにつながるでしょう。大人になれば健康診断を受診し、異常があれば早期に治療を行うことです。
また、医師会でも提唱していますが、かかりつけ医を作ってください。かかりつけ医は、家庭の日常的な診療や健康管理をしてくれる身近なお医者さんのことです。日ごろからかかりつけ医と接することで、病気のことはもちろん、生活上の悩みなども相談に乗ってもらい明るく健康に暮らしていけることでしょう。
【一般社団法人 一関市医師会】
会長 小野寺威夫
〒021-0884 一関市大手町3番40号
TEL:0191-23-8811 FAX:0191-23-9955