(idea 2021年8月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
※お願い※
記事内の写真や資料は、当情報誌での使用について許可をいただいて掲載しております。
無断での転載などの二次利用はご遠慮ください。
岩手県一関児童相談所所長。同児童相談所には令和3年4月現在、職員25人、会計年度任用職員10人、嘱託医(業務委託含む)2人が配置されており、18歳未満の児童に関する養護相談(児童虐待含む)、保健相談、障がい相談、非行相談、育成相談に対応している。
対談者 岩手県一関児童相談所 所長 山岸公美さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
児童虐待が全国的に増加する中、児童虐待を未然に防ぐために、一個人として、家庭として、地域として、それぞれにできることを考える2回シリーズの後編。「虐待の連鎖」を防ぐためにも、保護された子どもたちが幸せに育っていける「育ての親」の存在が重要です。「里親」という「選択」を正しく理解し、地域としてサポートしていくことが求められています。
小野寺 一階から子どもの声が聞こえますが、「一時保護※1」の子どもたちでしょうか。
※1 児童の一時保護が必要と認められる場合に、身柄の保護を行う。令和2年度の管内における一時保護児童数は94人(延1881日)。
山岸 はい。ここにはお風呂や食堂もあり、職員と一緒に寝泊まりします。当児相は県南7市町※2が管轄なので、管内の家庭から一時的に引き離した方が良いと判断された子が入所します。
※2 岩手県には盛岡、宮古、一関の3か所に児童相談所があり、 一関児童相談所の管轄地域は一関市、大船渡市、陸前高田市、奥州市、金ヶ崎町、平泉町、住田町
小野寺 親と子どもを引き離すのは、心が痛む判断ですよね。
山岸 たいていは虐待の程度が重く、いつまた殴られるか分からないような子や、親の方が「こんな子いりません」とか、子どもも「学校から家に帰りたくない」というような状態になっているケースです。
小野寺 切り離されることを望むということですか?
山岸 私たちが出会う時は、一番状況が悪い時なので、親も子どももSOSを出していることが多いです。一時保護によりいったん距離を置いてクールダウンし、冷静にいろんな話ができるようになると立ち直りの方向に向いていくことは少なくないです。虐待相談のうち、一時保護後も引き続き家庭から分離するのは1割程度で、9割は在宅での指導です。
小野寺 在宅での指導というのはどのようなことを?
山岸 職員が訪問し、例えば経済的な要因が背景にある時には、関係機関へつないだり、各種機関と連携して虐待リスクを下げていきます。一時保護になった場合でも同様に、子どものケアと同時進行で親御さんのケアをします。親自身の育った環境や成育歴などが子どもに投影されていることが多いので。
小野寺 自分も虐待を受けていたというケースですか?
山岸 連鎖していることが多いです。自分は被害者だったけど、その時は誰も助けてくれず、大人になって必死に子育てをしているのに、今度は加害者だと責められる……。積み残された課題が繰り返されているんです。たまに「自分は叩かれたり厳しくしつけられて良かった」と言うような方もいますが、そうやって正当化しないと辛くて立っていられないのかもしれません。
小野寺 背景はかなり深いんですね。複雑化しているというか。
山岸 私たちが関わるのは一時的ですが、親子関係は一生続くので、この子たちの連鎖を止めたい、幸せな子、幸せな親になって欲しいんです。なので引き離して終わりという訳にはいきません。1~2か月の分離では厳しいというケースになると、「一関藤の園※3」や「里親」などにお願いして、長期のケアをします。
※3 「社会福祉法人ふじの園」が運営する児童保護施設。
小野寺 里親登録をしている家庭は市内にどれくらい?
山岸 5月末現在で13組です。里親には一定期間お預かりする「養育里親」と、養子縁組を結ぶことが前提の「養子縁組里親」、扶養義務のある親族が養育する「親族里親」、特に支援が必要な子どもを養育する「専門里親」の4種類があります。
小野寺 養子縁組里親の場合、子どもを授かれなかったという夫婦が多いのでしょうか?
山岸 不妊治療をやめて、というご夫婦もいますし、定年退職を機に、というご夫婦もいます。その他に「ちょうど小さい子の育児中だから」という現役子育て世代の登録もあります。
小野寺 里親の元に行った子どもたちは、学校生活などはどう対応するのですか?
山岸 通学していた学校の管内に里親が見つかれば通うことができますが、13組では対応しきれないのが現実で、一時的に転校するようなこともあります。仮に、ひとり親家庭の中学生が、唯一の親が3か月病気で入院となると、部活などを続けるためにも本来の学校に通いたいわけです。なので、市内各地に里親さんが点在していることが理想で、登録者を増やす周知活動にも力を入れています。
小野寺 各地にいれば選択肢が増えますね。ただ、里親に興味はあっても、周囲の目を気にして躊躇する人も多いのでは?
山岸 やはり「登録はするが自分が里親だということは知られないようにしてほしい」という人もいますし、「地域にどう説明したら良いか」と相談される方も多いです。でも逆に「地域に協力をもらわないと安全に養育できないから、今受け入れているということを周知する」という人もいます。本来はそうあるべきなんですよね。
小野寺 不妊治療について産婦人科医に伺った時もそうでしたが、「不妊治療してます」とか「養子縁組しました」ということを堂々と言えるような社会になるべきで、リテラシーの向上が必要なんですよね。「子どもが生まれなかったから養子をもらった」ということを理解し、支えられる社会にならないと。
山岸 それこそ「子どもは地域の宝」として、社会全体で支えていくことが大人の責務かなと。
小野寺 未来への投資ですよね。どこかでできてしまった「養子=可哀そう」というネガティブなイメージを払拭しないと……。
山岸 極端なことを言えば、その子を愛してくれて、一生懸命育ててくれる人であれば、実の親じゃなくても良くて、そういう人と出会って育っていけることが大事。親神話と言いますか、「実の親」「夫婦という単位」が理想という概念がまだまだあるんですよね。
小野寺 生みの親より育ての親。子どもに可哀そうという眼差しが注ぎ込まれること自体が心理的虐待ですしね。
山岸 里親さんも安心して弱音を吐けて、子どももそこで見守られて、親子ともどものびのび育つような地域、地域づくりが理想ですね。
小野寺 「自分が里親になったら」などを考える機会を地域協働体などでもてたら良いですね。
(2回シリーズの後編 ★前編はこちら)
岩手県一関児童相談所
住所 一関市竹山町5-28
電話 0191-21-0560