(idea 2020年8月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。

二言三言 144/114476

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‘伴侶動物’と‘心の福祉’

~地域での人と猫の暮らしを切り口に~【前編】

一関保健所 主任獣医師 岩井佳子さん

一関保健所 主任獣医師 岩井佳子さん

花巻市出身。日本大学獣医学部卒業後、獣医師として岩手県職員へ。平成31年より岩手県一関保健所環境衛生課所属となり、前任者からの引継ぎで「県南ねこ会議(一関ねこ会議の後身)」を担当(今年度は副担当)。一関駅前地域の地域猫問題にも取り組む。自宅で飼養している猫3匹は「ハウス」ができるなど、猫にしつけができることを実証中。

対談者 一関保健所 主任獣医師 岩井佳子さん 

    

聞き手 いちのせき市民活動センター 主任支援員 佐々木牧恵

 日本では、収穫した穀類や、経典をネズミから守るために飛鳥~奈良時代頃から輸入され始めたとされる猫(諸説あり)。室町時代頃には、大事な存在として首輪でつないで飼っていた家も多かったという話も。ところが、現代においてはしばし「迷惑な存在」とされることが増えてきた猫。愛玩・伴侶動物と人間の関わり方の「これから」を2号に渡って考えます。

小野寺 「一関ねこ会議※1」から間もなく2年経ちますが、何か変化はありましたか。

 

※1 県南広域振興局全体の取り組み

 

岩井 一関保健所は県内でも動物に関する苦情・相談の多い地域です。生後間もない子猫が捨てられる例も後を絶ちません。そうした現状を変えたいと立ち上げられた「一関ねこ会議」は昨年度「県南ねこ会議」に発展しました。また、猫問題にかかるワークショップも開催予定でしたが、今般の人を集めにくい状況下で具体的なアクションが起こせずにいます。しかし、そんな中でも動物の「適正飼養」についての呼びかけは根気強く続けていこうと考えています。

 

小野寺 避妊・去勢手術(以下「手術」)の実施などですか?

 

岩井 飼主には室内飼いの徹底、手術の実施、首輪などでの所有者明示の3点をお願いしています。そしていったん飼ったら最後までという「終生飼養」が大原則です。「外にいる猫」イコール「野良猫」とイメージされがちですが、実はその元となるのは迷子や、外で繁殖してしまったために増えた「飼い猫」です。室内飼いや手術などの対策を取らずに外にいる猫が増えると、地域にとって迷惑な存在に。どうしても外に出すのであれば、飼主がわかるよう名札※2を付けて、手術もしてください。もともとの「蛇口」を締めなければ猫の数は減りません。

 

※2 今後ペットショップで販売される犬猫にはマイクロチップの装着が義務化される予定

 

小野寺 地方では外と中の出入りが自由な猫が普通ですからね。

 

岩井 猫は所有者がはっきりしている「飼育猫※3」、所有者のはっきりしない「ホームレス猫」、野生化し自力で生きている「ノネコ」の3種類に区分されますが、ホームレス猫の中でも一定のルール※4の中で地域の人に管理されて生活している猫が「地域猫」と呼ばれます。ホームレス猫をきちんと管理し迷惑行為を減らす(地域猫化する)ための一策に「地域猫活動」がありますが、それを成功させるには外を自由に出歩いて迷惑をかける猫を減らす適正飼養の徹底が不可欠です。捕まえて手術をしているそばから、次々と未手術の飼い猫が入り込んでくるようでは全く意味がないですから。

 

※3 室内飼いおよび内外出入り自由な猫

※4 「餌場や排泄場所を決めて後始末をする」「手術をして数を増やさない」など

 

小野寺 地域猫活動と聞くと、地域としてホームレス猫の世話をする活動をイメージしがちですが、そうではないのですね。

 

岩井 地域の中で迷惑な存在となる猫を減らしその被害を少なくすることが目的の活動です。外で暮らす猫の寿命はせいぜい4~5年。その間だけ猫が苦手な人にも許容してもらえるような存在にできれば良いのです。米国などでは地域猫に限ってはオス・メス本来の性質※5が残るような手術をするそうです。そうすると、よそから別の猫が入り込んでも、縄張りを守り追い払うので、新しい猫が入りにくく、結果、猫の数が増えないことが実証されているそうです。

 

※5 オスは精管結紮(人でいうパイプカットのようなもの)、メスは子宮のみ摘出。発ガンリスクは残るが、長生きさせることが目的ではない地域猫ゆえ理解が進んでいる。日本ではガンなどの疾病予防のため、オスは精巣摘出、メスは卵巣・子宮の全摘が主流であり、本来の性質が残りにくい

 

小野寺 なるほど。そうなると地域猫活動には猫に被害を受けている立場の人も巻き込むことが大切ですね。

 

岩井 猫が嫌いという人にも猫の習性を理解し、許容してもらえるようにすることが肝心です。猫の糞で迷惑していた方が地域猫活動に参加し、熱心に清掃活動に取り組んでくださったことで、結果的に街がきれいになったという事例も。合言葉は「捨てない」「増やさない」「いじめない」です。

 

小野寺 辿っていくと一人ひとりの生活スタイルにいき、つまりは地域づくり活動ですよね。

 

岩井 そうですね。また、適正飼養がきちんと行われていれば災害時の同行避難にも役立ちます。同行避難の課題は犬より猫。猫はリードを付けての散歩・排泄が難しく、慣れない場所ではパニックになりやすい性質です。被災地に犬猫を救出に行った経験がありますが、犬は飼主の呼びかけに応じて寄ってくるのに対し、猫は物陰に隠れて全く出てきませんでした。唯一救出できた完全室内飼いの猫も、ケージの中でずっとおびえていて。避難所における猫のトイレ対策、パニック対策は今後の課題です。

 

小野寺 確かに、ペット同伴可の避難所が開設されたとしても、避難する側が対応できなければ意味がない。避難所運営の在り方だけを考えるのではなく、日頃の飼養環境など、総合的に考えなければいけない問題ですね。

 

岩井 野良猫が出産したとの相談も多々ありますが、外飼いの猫が多いので本当に飼い主がいないかどうかの判断が難しく、簡単には引き取れない現状です。迷子の子猫を保護したが自分では飼えないので引き取ってくれる動物愛護団体を紹介してほしいという問い合わせもありますが、愛護団体は身銭を切って活動している方々がほとんどで、収容できる数も限られており、すぐ引き取ることは難しいです。可哀そうで見過ごせないというのであれば、ご自分でもある程度までは関わる覚悟※6をもって欲しいです。しかし、大事なことは保健所や保護団体に持ち込まれる数を減らす、前述の「蛇口を締める」ことです。猫は生後半年で成猫となり、交尾するとほぼ確実に妊娠、どんどん増えてしまいます。複数の子猫が箱に入れられ「だれか拾ってください」的なメモが置いてあることもありますが、生まれた子猫を置き去りにすることは動物の遺棄に当たる犯罪行為。増やさない努力をすることが飼主の責任です。

 

※6 自力で餌を食べられるようになるまでは世話をする、ワクチン接種や不妊手術までは行うなど。

 

小野寺 捨てた人は完全に責任放棄ですが、それを善意のつもりで助けても、責任転嫁でしかないわけですね。

 

岩井 岩手県では動物管理センターがまだないので、引き取った子猫などは各保健所単位で職員が交代で世話をしたり、ご協力いただける動物愛護団体の方との協働で預かりボランティアや譲渡先を探さなければならず、人手不足が現状です。

 

小野寺 制度の隙間から漏れる問題=社会の課題に気づける人がどれだけいるかが今後は重要で、個人のボランティアの価値が再認識されますね。

 

岩井 今後は「自分はもう動物を飼うのは無理だが、一時預かりならできる」という飼育経験のある元気な高齢者の方にボランティアをお願いするようなことも考えていきたいと思っています。

 

(2回シリーズの前編 ★後編はこちら

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