(idea 2023年11月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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市内福祉施設に勤務する傍ら、令和2年に「岩渕社会福祉士事務所」を開業し、成年後見活動等を行う(岩手県社会福祉士会が運営する成年後見人等の登録機関「ぱあとなあ岩手」に在籍)。令和5年で福祉施設を退職、成年後見人活動を中心に、「あかり食堂運営委員会」代表や「大原地区福祉活動推進協議会」事務局も担う。昭和58年、大東町大原生まれ(在住)。
対談者 岩渕社会福祉士事務所 代表 岩渕 城光さん【前編】
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
平成12年、民法の抜本的改正により施行された現在の「成年後見制度」。明治31年制定の「民法」においても「禁治産制度」として類似する制度があったものの、①自己決定の尊重、②残存能力(現有能力)の活用、③ノーマライゼーションという3つの理念を踏まえて新制度となりました。判断能力の不十分な方々を保護し、支援する同制度について、我々が知っておくべきこととは?。
(2回シリーズの前編)
小野寺 認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な人を保護し、支援する制度ですが、具体的には?
岩渕 要は法定代理人です。本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、逆に本人がした不利益な法律行為を後から取り消すことができます。この制度には「法定後見」と「任意後見」とがあり、「法定後見」には、その判断能力の程度に応じて「補助」「保佐」「後見」と3つの類型があります。
小野寺 後見だけじゃないんですね。どういう違いが?
岩渕 補助・保佐は判断力がある程度残っている人の場合で、基本的に本人の意思が尊重され、代理権は部分的に与えられます。後見は判断能力が欠けている状態が通常である人の場合で、包括的に代理権が与えられます。最も利用されるのが後見です。
小野寺 例えばお金の管理でいくと、後見だと後見人が全て代理して、補助・保佐の場合は?
岩渕 お金の管理ができない人であれば、財産管理についての代理権を与えてもらうことで対応できますが、本人ができるのであれば与えられません。ただ、保佐には民法※1に定められた行為について「同意権(取消権)」が認められているため、保佐人が同意を与えていない法律行為は取り消すことができます。
※1 民法13条1項
小野寺 仮に悪徳業者から高額商品等を購入してしまっても、取り消しできるということですね。認知症の家族がいる場合などには、安心材料の一つかと。
岩渕 ただ実際には、そうした段階での制度利用よりも、相続などの関係で「後見人を立ててください」と言われ、必要に迫られて後見人の申し立てをするケースの方が多いです。制度の認知は進んでいない現状です。
小野寺 言葉は聞いたことがあっても、具体的に必要となるケースのイメージが持てない人が多いんだと思います。
岩渕 相続や不動産の売買契約などがわかりやすいです。相続人に認知症の人などが入っていた場合、後見人は本人が不利益にならぬよう、本人の意思を確認しながら他の相続人と協議し法定相続分を確保します。また、土地・建物の売却にあたっても、本人に判断力がなければ契約できません。
小野寺 そうすると認知症の高齢者に限らず、知的障害、精神障害がある若い世代にも関係してきますよね。親の遺産分割協議で本人の意思を確認できるか。
岩渕 私はまだ経験がないですが、全国的に見れば若い世代※2に後見人等がつくケースもあります。ただ、今の制度だと、一度申し立てをして後見人がついてしまうと、亡くなるまで後見制度の利用をやめることはできません。
※2 未成年に後見人がつくケースもあり、その場合は「未成年後見制度」の利用となる。
小野寺 なるほど。申し立てをするタイミングは慎重に検討しなければいけないですね。例えば子どものいない高齢の夫婦二人世帯で、ご主人が他界して、奥さん一人取り残されたとして、どのタイミングで申し立てをすべきでしょうか?
岩渕 認知機能が衰えてきて、家事、通院、家や敷地の管理、公共料金や税金の支払いなど、そういう部分が崩れていったとき、ケアマネージャーなど福祉の専門職がついて、介護サービスが介入してくるようになれば、必要な支援が明確になってきます。その中で支払関係などに不具合が生じていると判断されれば、ケアマネージャーなどと相談して後見人の申し立てを行い、支払いを自動引き落としにしたり、その人の年金や収入の範囲内で家計や介護サービス費用がやりくりできるように後見人が管理します。自宅での生活が難しくなり、施設入所が適当となった際には、その契約も後見人が行い、その後の家や敷地など、固定資産の管理※3も後見人が代理で行います。
※3 敷地の草刈りなどは、後見人が直接行うのではなく、本人の収入の範囲内で、シルバー人材センター等に依頼して必要に応じて行う。
小野寺 福祉・介護サービスと結びつけば、後見人などの申し立てにもつながっていくんですね。とは言え、障害を理由とした申し立ての場合は、親の急逝など、突然必要になるケースもあり得ますから、頭に入れておくべきでしょうね。
岩渕 自身の将来への備えであれば、自分にまだ判断力があるうちに「この人に後見人になってもらいたい」というのを事前契約しておく「任意後見」の制度が使えます。法定後見の場合、後見人は家庭裁判所が選任するため、希望通りにならないことがありますが、任意後見の場合、自分が選んだ人が確実に後見人になります。自分の意志を組んで後見人事務をしてくれるであろう人と、公正証書で契約しておくんです。
小野寺 そもそも後見人は誰でもなれるものなのですか?
岩渕 基本的には誰でもなれます。親族、市民後見人、弁護士・司法書士・社会福祉士等の専門職などが多いです。家庭裁判所は被後見人の抱える課題を見て選任します。法律的な手続きが多々必要な人であれば弁護士や司法書士、身上監護と言って本人の生活維持に関する案件が多そうであれば社会福祉士が選任されることが多いです。
小野寺 岩渕さんのような社会福祉士の後見人の場合、ソーシャルワーカーさんのような位置づけを期待されるのですか?
岩渕 近い部分はありますが、本来は、後見人はあくまでも「代理人」であり、本人に代わってサインをしたり、お金の出し入れをする役割です。なので、ソーシャルワークの部分は、福祉・介護の立場で関わっている人をメインにし、そちらからの提案等に対して、本人の代わりに判断をするイメージです。
小野寺 ケアマネージャーとしての経験がある岩渕さんならではの強みですよね。
岩渕 成年後見人は需要が増えていますが、成り手が少ないのが現状。私自身も初めて後見人になったのが3年前なので、様々なケースでの経験や知識を蓄積し、一人でも多くの依頼に応えられるようになれればなと思っています。
【後編に続く】