(idea 2023年12月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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厚生労働省のHPでは成年後見制度に関する各種パンフレットがダウンロード可能。
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市内福祉施設に勤務する傍ら、令和2年に「岩渕社会福祉士事務所」を開業し、成年後見活動等を行う(岩手県社会福祉士会が運営する成年後見人等の登録機関「ぱあとなあ岩手」に在籍)。令和5年で福祉施設を退職、成年後見人活動を中心に、「あかり食堂運営委員会」代表や「大原地区福祉活動推進協議会」事務局も担う。昭和58年、大東町大原生まれ(在住)。
対談者 岩渕社会福祉士事務所 代表 岩渕 城光さん【後編】
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な方は、不動産や預貯金などの財産管理、介護サービス等の契約が自分では難しく、自分に不利益な契約を結び、悪徳商法の被害にあう恐れも。そのような方を保護し、支援する「成年後見制度」ですが、制度の正しい理解が進んでいないのが現実です。具体的な制度活用のイメージを、広く市民が持つことが求められています。
(2回シリーズの後編 前編はこちらから)
小野寺 岩渕さんは介護の現場での勤務歴もありますが、後見人制度が必要だなという利用者さんも見てきましたか?
岩渕 重度の認知症で、もう判断能力がないという人はいましたが、私の担当する中には、後見人がついている利用者はいませんでした。身内が手続きや通帳管理をしてくれるので、制度を使うに至らないのでしょうが、厳密に言えば後見人が必要なケースがあったかもしれません。家族と言えども、本人名での契約や、通帳の出し入れを自由にできるわけではないので……。
小野寺 親族が後見人になるケースも多いようですが?
岩渕 過去には多かったのですが、最近は専門職※1が選任されることが増えているようです。親族は本人のことを最も理解している立場だと思いますが、親族が後見人になると、本人の意思を尊重する場面で家族の意向と相違した場合に葛藤が生じたり、財産管理が本人分と家族分と明確に分けることが難しかったりと、本人の権利を守る制度のはずが、関係が近すぎるがゆえの課題が見えてきたためです。
※1 弁護士・司法書士・社会福祉士等。前編参照
小野寺 「家族が看る」というのが世の中の当たり前みたいになっていますが、家族だからこそ、個人の領域を犯してしまうことがあるんですよね。
岩渕 「自分の親」であっても、客観的な視点で関わることが必要なんです。
小野寺 ちなみに後見人は普段はどんな活動を?
岩渕 私の場合、所属する社会福祉士会のルールに則り、月に1回は本人と面談します。ケアマネのように本人のもとに出向いていき、現在の様子や本人の意向を確認しながら、それに見合った生活ができるようにコーディネートします。
小野寺 財産管理などは?
岩渕 ケースバイケースですが、口座引き落としにしてあれば、銀行で記帳して確認したり、施設入居者であれば、施設に預けておく小口の残高を確認して補充したり。後見人に選任された直後は銀行に後見人になった届け出をして、引き出しできる状態にしたり、年金事務所等にも届け出をして、ハガキなどの送付先を後見人宛に変更する場合もあります。
小野寺 郵便物の送付先変更は大事かもしれないですね。
岩渕 在宅で一人暮らしの認知症の方だと、郵便物の管理ができないことが多いので。家庭裁判所の許可を得れば、年金ハガキだけでなく、郵便物全般の回送をすることができます。
小野寺 それは安心ですね。
岩渕 なので、遠方に住む親族が、「できれば看たいけど、日常的には看ることができない」という理由で、後見人を申し立てるケースもあります。
小野寺 実家の親に安全に暮らしてもらうために、後見人に身上監護をしてもらう……確かにニーズは多いですよね。
岩渕 ただ、「医療同意」など、後見人にもできない行為があり、「後見人に任せているから一切関わらなくて良い」というわけではありません。
小野寺 医療同意が必要になった時にはどうするんですか?
岩渕 親族に連絡をとって、協力をお願いします。同様に後見人は本人が存命中の代理人なので、ご臨終となった瞬間に役目を終えます。なので、死亡診断が告知されたタイミングで元後見人となり、速やかに預かっていた通帳や財産のまとめをし、相続人に引き継ぐ段取りをしなければいけません。
小野寺 そうなんですか!死亡届や火葬許可などの手続きはできないということですか?
岩渕 義務はないんですが、親族ができない場合などは、家庭裁判所に死後事務の許可を取ることで、期限の迫った請求の支払いや相続財産の保存に必要な事務、火葬または埋葬に関する契約などは対応できます。ただ、お葬式まではできませんね
小野寺 相続人がいなかったり、拒否されたりすることもあるんじゃないですか?
岩渕 本当にいなければ、家庭裁判所に誰に引き継ぐのかを決める申し立て※2をしますが、本当にいないというケースは実際には少ないです。
※2 「相続財産管理人の選任申立て」。相続人の存在・不存在が明らかでないときや、相続人全員が相続放棄をし、結果として相続する者がいなくなった場合などに、申立てを行い、家庭裁判所に相続財産の管理人を選任してもらうこと。
小野寺 「親族とは縁を切った」という発言をする方もいますが、物理的には不可能で。辿って行けば誰かしらはいて、「自分は関係ない」という問題じゃないんですよね。
岩渕 はい。なので後見人になったら、まずは親族の方に一報を入れ、「何かあった時には協力をお願いしたい」と伝えておきます。そして定期的に本人の状態を伝えるなど、関係性を切らないようにしておかないといけないですね。どうしても「今まで仕方なく看ていたけど、後見人がついたら自分は手を引きたい」という方もいて、そういう考え方は本来の制度の趣旨と異なるわけです。
小野寺 制度があるなら、お金を払ってでも押し付けたいと考えてしまう人もいるでしょうが、あくまでも「本人の権利」を守るための制度であって。この制度によって親族関係が希薄になってしまったら、本末転倒ですよね。
岩渕 介護サイドの人たちと連携し、手続きや支払いなどの事務的な部分で、「本人にはできないから後見人にお願いしたい」というように、生活の一部分を担う立場でしかありません。でも逆に、この部分は後見人にしかできない立場でもあります。
小野寺 大事なのは、家族や親族含め、「みんなで支えていく」ということ。手続きなどに関しては後見人制度などを利用することで、第3者の介入を得られるので、支え合いの手を増やして、上手にやっていきましょうっていうことですね。
岩渕社会福祉士事務所
電話 090-2028-5925
一関市成年後見支援センター(長寿社会課内)
電話 0191-21-8370