(idea 2025年4月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。

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「自分のこころ」の「一番大事」を知る

~自尊心の「光」を育める社会に【前編】 ~

ポストカード 「室根山のツツジ」 写真 遠藤凌平/イラスト 戸田さちえ

「室根山のツツジ」「川崎町の水田」「大東町の小黒滝」の全3種類のポストカードをフォトグラファーの遠藤凌平さんと制作(写真は「室根山のツツジ」)。

戸田さちえ


 東山町出身のイラストレーター。高校を卒業後、北欧の園芸学校へ進学し、20年ほど前に地元へUターン。あたたかみがあり、寄り添うようなイラストを手掛け、市内外の企業やイベントなどで幅広く使用されている。イラスト関連の活動だけでなく、東山和紙を使用したワークショップや地域の企画等にも携わる。


対談者 イラストレーター 戸田さちえさん

 

聞き手 いちのせき市民活動センター  センター長 小野寺浩樹


 出身地・東山町のみならず県外等でも活動しながら、あらゆる場面で活用され、長年愛されるイラストを手掛ける戸田さちえさん。イラストレーターとしてのこれまでの活動を振り返りながら、「絵を描くこと」について戸田さんならではの視点と、その筆を動かす原点に触れ、現在の「和紙を使用した活動」についてのお話を伺います(2回シリーズの前編)。


小野寺 私が初めて出会った戸田さんのイラストは、「NPO法人 いわて発達障害サポートセンター えぇ町つくり隊(以下、えぇ町つくり隊)」の自閉症理解のためのポスターでした。子育てや福祉の関連でもよく拝見していますが、イラストはどういった流れで依頼されるのでしょうか?

 

戸田 色々な場所に訪問しているので、そこで出会ったご縁で依頼を受けることがあります。「えぇ町つくり隊」のポスターは、姉が療育の仕事をしていることもあって繋がった縁でした。

 

小野寺 そうだったんですね。20年程前に障がい者支援の動きが沢山あったので、戸田さんのイラストを見たことがあるという人は多いと思います。前回取材させていただいた、フォトグラファーの遠藤さんとも繋がりがあると聞きました。

 

戸田 はい、3年ほど前に私の個展に来てくれてお話したのがきっかけです。私はその頃「町をあるく HIGASHIYAMA MAP」の制作(令和3年)に携わっていて、ちょうどカメラマンを探していたので声をかけました。地域の職人さんを取材して、「手から生まれるひかりたち」※1という企画展を一緒にやったこともありますね。

 

小野寺 二人のコラボでいうと、ポストカード(上部写真参照)のように、写真にイラストを描くという発想が面白いなと感じています。

 

戸田 「手から生まれるひかりたち」の企画展後に、「お互いの写真と絵とを別々のものではなく、コラボしてひとつのものとして表現することでどんな化学反応が起きるのかやってみたいね」と話していたところ、あるイベントの来場者用のプレゼントとしての依頼があり、実際の形となって実現しました。遠藤さんとのコラボのときは、彼が表現したいものと私がイラストで表現したいものがマッチしていて、気持ちよく描くことができました。

 

小野寺 なるほど。写真とイラストを組み合わせる技法で、より魅力的な作品になっているように感じますね。

 

戸田 写真を撮影したときのものなのか、その写真に流れているものなのか、写真から「音」みたいなものが聞こえてくるんです。それを拾いながら、自分のなかに浮かんだものをただ楽しく描きました。「絵だけ」「写真だけ」の表現じゃないので、このポストカードを見てくださる人は、それを感じてくれているのかもしれません。

 

小野寺 「音」という表現が素敵ですね。戸田さんがイラストを描き始めた原点は何でしょう?

 

戸田 そうですね、私はいつも「絵を描いてる」という感覚がなくて……。うちの父は書道を嗜んでおり、和紙も好きで和紙の職人さんをよく訪ねていたんです。その関係で、自宅に和紙が沢山あり、小さい頃、父の側に行くと、いつも墨が磨ってありました。そのため、筆を使って和紙に絵を描くというのが日常で。「絵を描いている」という感覚が無いのは、その経験からだと思います。

 

小野寺 たしかに、戸田さんは筆のタッチで描かれていますよね。私は「筆は文字を書くもの」というイメージしかなく、筆先を置くと滲んでしまうんじゃないかと緊張します(笑)

 

戸田 私も下書きをせず、「こう描こう」というものは決めていないので、滲んだら滲んだでそのまま、「何か」が生まれる過程を楽しんでいます。

 

小野寺 描いている感覚がなかったり、構えずに描けたりするのは、和紙に筆で描く流れが体の一部になっているという感じでしょうか。

 

戸田 筆をおろしたときに、自分のなかの「何か」が動き出す感覚を味わえるのが「和紙」なんです。東山町に生まれたので、和紙が身近にある環境だったのも良かったんだと思います。

 

小野寺 東山和紙※2も、ぜひ残していきたい伝統ですよね。

 

戸田 はい。残していく方法をみんなと一緒に私も考えているのですが、これがなかなか難しくて。今のお家は障子も使わないですし、襖もないですし、書道もしないし……。

 

小野寺 家の中に筆や墨、和紙があること自体が非日常になってきていますよね。

 

戸田 そうなんです。だから、アートなやり方なら東山和紙を世界に発信できるかもしれないとも思いました。ですが、アートだと「みんなが身近に楽しさを感じる」という点では難しい。私は、もっと身近に味わってもらいたくて、そう思ってもらうにはどうすればいいのか、日々模索しているんです。

 

小野寺 戸田さんは小さい頃から和紙にれる機会は、小学校の書道の授馴染みがありましたが、現代の人が和紙に触業とかでしょうか。

 

戸田 そうだと思います。書道のときだけじゃなくて、色んな行事とかで、子どもたちが何かを作る時に、ぜひ和紙を使って欲しいんです。「紙を割く感覚」「筆がはしる感覚」を小さい頃から知っていれば、大きくなったときに思い出してくれるかなって。

 

小野寺 子どものための、五感を刺激するワークショップは沢山ありますが、和紙や筆を使ったワークショップは珍しいかもしれませんね。

 

戸田 子どもたちの心ふんわり柔らかい時期、「こうしなくちゃいけない」という固定観念がまだないうちに、和紙の感覚をもっと知って欲しいと思っていて。それで、和紙を使った活動をしているんです。子どもたちだけでなく、大人向けでもやっているのですが、東山和紙でモビールを作ったり、東山和紙を使って箱に自由にコラージュしてみたりするワークショップを開催したことがあります。

 

小野寺 なるほど、とても大事な活動だと思います。そこが、現在の戸田さんの活動に繋がっているんですね。

 

【後編に続く】

 

※1 「イラスト 戸田さちえ×写真 遠藤りょうへい コラボ展 手から生まれるひかりたち」は、地域でものづくりをしている人たちの背景を、戸田さちえさんと遠藤凌平さんの二人が取材し、イラストと写真に表現した企画展。「石と賢治のミュージアム」を会場に令和4年3月12日(土)~21日(月)開催された。

 

※2 一関市東山町で800年以上受け継がれている伝統の手漉き和紙。