(idea 2022年12月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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スクーニングの授業の様子
一関学院高等学校(学校法人一関学院)通信制課程教頭。平成2年に同校全日制課程の教師として着任(当時は一関商工高等学校)。平成15年の通信制課程の立ち上げに関わり、以後、通信制課程の主任教諭として従事。令和4年度より同課程教頭へ。現在も教壇に立ち続けている。京都府出身、一関市在住。
対談者 一関学院高等学校 通信制課程 教頭 橋野 智弘さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
戦後、就業等により全日制高校に進学できない学生のために制度化された高等学校における定時制・通信制課程。しかし近年は全国的に「働きながら学ぶ」という生徒は減少し、そのニーズは制度発足当初と大きく様変わりしています。ニーズは増える中、県内には公立通信制高校※1が2校、私立通信制高校※2が2校(広域通信制高等学校を除く)とわずか4校のみ。そのニーズと現状とは?(2回シリーズの前編)
※1 「岩手県立杜陵高等学校」「岩手県立杜陵高等学校奥州校(岩手県立水沢商業高校内)」
※2 「一関学院高等学校」「盛岡中央高等学校 単位制」
小野寺 まずは一関学院高等学校(以下、学院)さんの通信制課程について教えてください。
橋野 当校の通信制課程は3つに分かれています。一般コースの中で、土・日曜日に学院敷地内にある校舎(通信制課程専用)に通う生徒たちと、水~金曜日に気仙沼教室に通う生徒たち、そして各学期3日間ずつしかスクーリングのない在宅コースです。今年度は合計で122名が在籍しています。
小野寺 気仙沼にも教室を持っていらっしゃったんですね。一関市で通信制課程を設置しているのは学院さんだけですよね?
橋野 通信制高校には広域認可と狭域認可の2パターンがあり、広域認可は全国規模で展開している学校で、広域通信制高校のサテライト教室であれば市内にもいくつかあります。狭域認可の場合、学校のある県+隣接する1都道府県の生徒が入学対象となっており、当校は狭域認可で岩手県と宮城県の生徒を受け入れています。狭域認可の通信制高校は県内に4校のみです。
小野寺 広域認可の通信制高校は増えていますが、本校が地元にないと不安が……。
橋野 当校の場合は、全日制も展開する地元の学校ですし、通信制課程は地域における一つの「受け皿」として平成15年から設置しています。私は全日制の教師として着任し、通信制課程の立ち上げから関わっている生き字引のような立場です(笑)
小野寺 卒業した後も地元の母校に先生がいるというのは安心ですよね。「受け皿」ということですが、教育の現場だけでなく、地域の中でも「学校に行かず家から出られない子が増えている」という声が増えています。通信制課程に通っている生徒さんたちの中にはそのような子も多いのでしょうか。
橋野 当校の生徒の多くは高校に該当する年齢ですが、入学の背景はかなり多様です。その中でも、全日制からの転校ではなく、中学校で不登校になった子が、ストレートで通信制を選択するというケースが増えてきていますね。
小野寺 高校進学の選択肢の幅が広がってきているということですか?
橋野 そうかもしれません。一昔前は昼間に働いて夜に就学するという生徒が夜間定時制に通うという程度の選択肢でしたが、今は昼間定時制や当校のような通信制がある。定時制は時間が全日制と異なるだけで、基本的には毎日対面での授業があります。定時制の中でも、就労目的でなければ昼間定時制を選択したり、対面での人間関係に抵抗がある場合には当校のような通信制を選択することができます。当校は通信制ですが、3年で卒業することも可能です。
小野寺 なるほど。3年で卒業できるというのは「単位制※3」という仕組みだからですよね?高校で単位制というのはイメージがしにくいのですが……。
※3 学年による教育課程の区分を設けず、決められた単位を修得すれば卒業が認められる。昭和63年度から定時制・通信制課程において導入され、平成5年度からは全日制課程においても設置が可能に。
橋野 高校の卒業に必要な単位は文科省で74単位と定められていて、これは全日制・通信制・定時制に共通します。当校の場合、単位制なので、大学と同様、履修登録をします。必修単位と選択単位があり、1年間の上限30単位の中で組み立てます。
小野寺 全日制課程から転校してきた場合はどうなりますか?
橋野 例えば2年生まで全日制を終えての転校の場合、60単位くらいの持ち込みとなり、残りの14単位を修得すれば良いんです。ただし、全日制の場合、学年の途中での単位認定はありません。
小野寺 年度末を待たずに転校すると、そこまでの履修はなかったことになるということ?
橋野 そうです。不登校のまま年度末まで在籍し、単位の修得が進級判定会議で認められなければ、留年扱いとなり、単位はありません。そうなると同じ年齢の子たちとの卒業ができなくなりますよね。単位制であれば修得した単位は生きるので、そういうことはないんですが……。
小野寺 学校生活に馴染めないという子たちにとっては、単位制の方が合っているのかもしれませんね。
橋野 テストなどの際にも、当校通信制課程の場合、一定時間を過ぎれば、終了した人から退席して良いことにしています。
小野寺 本当に大学のようですね。どうしても通信制というものにネガティブなイメージを抱きがちですが、こういう仕組みであれば卒業できる子たちが少なからずいると思うので、「単位制の通信制高校」という存在を周知していきたいですね。
橋野 当校通信制の長所の一つに「年齢をずらさずに次に出してあげること」があります。本来、高校含め学校は「学問」の場であり、卒業の有無や年齢よりも学んだ中身が重要なはずなんですが、今は就学支援金制度※4もあり、高校を出るのが普通になっていて、かつ、高校の卒業が就職や社会に出るための重要な要素になってしまっています。全日制高校からの場合、3年生は10月、1・2年生は12月までに当校通信制に転校すれば、年齢をずらさずに卒業できる可能性があります。
※4 高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって教育の実質的な機会均等に寄与することを目的に、授業料に充てるための就学支援金を支給するもの。国公私立問わず、高等学校等に通う所得等要件を満たす世帯(年収約910万円未満の世帯)が対象。
小野寺 例えば夏休み明けから学校に行けなくなってしまったという場合、10月か12月までに通信制に転校すれば、間に合うということですね。親の覚悟や判断のタイミングも重要ですね。
橋野 当校の場合、進学校から転入してきた子もいるので、元々学力が高い子などは、国立大学や難関私立大学に進学しています。時間はたっぷりあるので、予備校に通うなど、進学の準備は充分可能です。総合型選抜や公募制推薦の指導もしています。
小野寺 通信制高校のイメージを我々親世代や地域がリセットすることで、再び社会につながっていける子どもたちが増えるということですね。