(idea 2023年1月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
※お願い※
記事内の写真や資料は、当情報誌での使用について許可をいただいて掲載しております。
無断での転載などの二次利用はご遠慮ください。
通信制過程の校舎外観
一関学院高等学校(学校法人一関学院)通信制課程教頭。平成2年に同校全日制課程の教師として着任(当時は一関商工高等学校)。平成15年の通信制課程の立ち上げに関わり、以後、通信制課程の主任教諭として従事。令和4年度より同課程教頭へ。現在も教壇に立ち続けている。京都府出身、一関市在住。
対談者 一関学院高等学校 通信制課程 教頭 橋野 智弘さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
文科省によると、高等学校への進学率は98・8%(令和2年)。そのうち2・4%が定時制、6・3%が通信制課程となっており、通信制課程の生徒数は増減はありつつも全体としては右肩上がりです。また、単位制の高等学校も増え続け、全国では1250校以上に。当市において単位制の通信制課程を展開する一関学院高等学校(以下、学院)に、そのニーズと現状を伺いました。
(2回シリーズの後編 〈前編はこちら〉)
小野寺 学院さんの通信制課程は、社会からこぼれ落ちていく子たちを食い止めていくような存在だと感じますが、実際にはどんな生徒たちが在籍しているのでしょうか?
橋野 様々ありますが、最近増えているのは、中学校までも含めて、普通に全日制に通っていた生徒が、SNSなど、ちょっとした人間関係の行き違いなどで登校できなくなり、転校してくるケースです。そういう子の場合、環境が変わることで、普通に卒業し、就職できています。
小野寺 確かに、大人の世界でも、職場が合わないと感じれば転職するわけですから、高校も同様の考え方ですね。
橋野 友達関係で行けなくなったという子は、わりとすぐにリセットして、元気にアルバイトに行ったりしていますよ。
小野寺 必要な授業にだけ出てアルバイトをするとなると、本当に大学生のようですね(笑)
橋野 全日制の場合、家庭の事情などがない限り原則アルバイトは禁止ですが、通信制の場合はむしろアルバイトを勧めています。アルバイトで大人社会に慣れているせいか、就職試験の面接も反応がよく、全日制の子が落ちて通信制の子が採用されたという例も少なくないです。
小野寺 名門大学を出ている子よりも、そうやってアルバイトなどで社会経験を積んだ子の方が応用力があって、即戦力になりますよね。
橋野 ここに来た時は、精神的にガクッとなっている子が多いんです。全日制に行けていた子などは「どうしてこうなってしまったんだ」と自信をなくしていて。でも、ここに来れば同じような境遇の子がいるので、「こういうのもありなんだ」と気づいて、元気になるんです。
小野寺 ちなみに通信制に通う生徒の数は10年前と今では変わっているんでしょうか?
橋野 通信制の生徒はほとんど同じくらいです。ただし、子どもの数が減少している中ですから、比率は増えていることになります。今は、全日制が354人で、通信制は122人です。
小野寺 割合が多いように感じますね。今後、全日制と通信制の生徒数が逆転してしまうような可能性はありますか?
橋野 考えられなくはないですが、私個人としては、全日制に行けるのであれば全日制に行った方が良いと思うんです。人との関わりの中で、合う人もいれば、合わない人もいる。それが当たり前で、学校は社会の縮図のようなものじゃないですか。
小野寺 友達関係とか、集団生活というのをある程度経験しておかないと、大人になってから困りますからね。選択肢の一つとして通信制が普通になりつつある中で、「自分の時間を自由に使いたいから」という理由で通信制を選ぶ子が増えなければ良いなと思います。
橋野 はい。あくまでも通信制は補助的なものというか。地域として、社会とのつながりから脱線してしまいそうな子を受け止めてあげるためであって……。
小野寺 地域としては、そういう子たちも地域社会の一員であり、存在してるんだよということを認めてあげなきゃいけないし、受け入れて、支えて、時には背中を押してあげるという状況を作っていかないといけないと思うんです。いじめ、引きこもり、不登校……、そういう言葉に当てはめて判断してしまいがちですが、もっと様々な背景があるはずなんですよね。
橋野 単に子どもたち自身の問題だけでないことも多いです。家庭環境だったり、自分の拠り所のようなところがないと感じてしまったり。学校が社会の縮図と言いましたが、通信制はさらなる社会の縮図です。
小野寺 そういう縮図のようなものが、ここに集中しないように、地域社会がもう少し関心と責任をもっていかなければいけないですね。近年、「夜間中学※1」がピックアップされていますが、どちらかというと、「学び直し」という意味合いなので、混同は避けたいです。
※1 「中学校夜間学級」のことで、市町村や都道府県が設置する中学校において、夜の時間帯等に授業が行われる公立中学校。義務教育を修了しな いまま学齢期を経過した方や、様々な事情(不登校等)により十分な教育を受けられないまま中学校を卒業した方、外国籍の方などの、義務教育を受ける機会を実質的に保障するための様々な役割が期待されている。
橋野 当校が担う目標の一つに「本来全日制に行ける子たちのバックアップ」があり、軌道修正をしてあげる、ということがあります。高校を卒業させ、次につなげる。ただ卒業するという形ではなく、何かしらにつないだ状態で卒業させることを意識しています。就職や進学が難しければ、「地域若者サポートステーション※2」につないで卒業させるとか。
※2 厚生労働省委託の支援機関で、県内では盛岡市、宮古市、一関市(「いちのせき若者サポートステーション」として一関市大町「なのはなプラザ」4階に開設)に設置。働くことに悩みを抱えている15歳~49歳までの方の就労を支援する。
小野寺 通信制高校は様々ある中で、そこまで意識してくれる高校が地元にあるというのは本当に宝だと思います。一関市民は誇りにもつべきです。
橋野 そういう点でいけば、中学校からの不登校や、友達関係で不登校になってしまったという場合には、当校の全日制に進学すると良いと思います。自信はないけれど全日制に挑戦してみたいという時に、他校の全日制に行ってダメだった場合、当校の通信制に入るには「転校」になりますが、当校の全日制からであれば「転籍」であり、学校は変わりません。また、全日制とは連携しているので、欠席が続くなど「やっぱり厳しいかな」というタイミングでフォローを入れ、留年状態になる前に転籍をサポートします。
小野寺 そういう情報を中学校の先生たちもしっかり把握し、適切に進路指導して欲しいものですし、親世代のマインドリセットも必要ですね。
橋野 通信制を滑り止め的な意味合いで捉えるのではなく「自分のペースでやっていく」ための学校だとポジティブに捉えていただければ。入ったら、出口までサポートします。
小野寺 厚労省では「切れ目のない支援」を謳っていますし、まさにそれを実現されている。「単位制通信制高校」へのリテラシーを高めていきたいです。