(idea 2019年2月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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対談者 陶工房 陣の里 菅原 仁(ひとし) さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺 浩樹
一関市滝沢出身の菅原さんは、関東での仕事を早期退職し、卒業した旧真滝中学校の校舎の部材を使って建てた「陶工房 陣の里」を平成23年に開業。地域の交流スペースとして場所を提供する取り組みや、一関にUターンしてみて感じたことを伺いました。
【小野寺】菅原さんが一関にUターンしようと思ったきっかけは何だったんですか?
陶工房 陣の里 菅原仁さん
【菅原】僕は一関に来る前、国交省で主に鉄道関係の仕事をしていたのですが、地域振興にも携わっていましたし、背景として全国的に統廃合になった校舎を地域おこしに有効活用する取り組みも知っていました。平成20年に僕が卒業した旧真滝中学校の校舎が解体されるという話を聞いたものですから、それを地元でやってみようと思ったのがきっかけです。当時、私の親は老々介護をしていて、僕は実家の長男なのでいずれは戻ってこなければならず、その時期が合ったというか。それに、20代の頃に夢だった陶芸家にも挑戦してみたくて。
【小野寺】「陣の里」は、ギャラリーや交流スペースとして色々な方に活用していただいているそうですが、屋内には校舎だった時の名残をあちこちに感じますね。建物の設計もされたんですか?
【菅原】土木設計の経験もあったので、図面は自分で引きました。解体前の校舎を写真で撮っておき、○番の部材を○番に配置するよう大工さんに指示したりしてね。教室は丁寧に壊して、職員室の受付窓、技術室のシャフト、工作机とか、残したいものを選んで建物に組み入れました。
【小野寺】昔の学校や教室って趣がありますよね。それを建物に組み入れようという発想がすごいです。地域では具体的にどのような使われ方をされているんですか?
【菅原】団体の会議、女子会、講演会、音楽コンサートとか色々です。埼玉の太鼓集団が、東北ツアーの一環で2週間ほど滞在したこともありました。庭で太鼓の練習をしていたら地域の人たちが気になって集まってきて、そこで地域と交流したり。ある意味、仕掛けているんですけどね。
個人所有の家ですが、校舎の部材を活用していることから「地域の共有財産」「地域資源」であると捉えていて、皆さんにレトロで木の温もりを感じていただき、リラックスした雰囲気で利用していただけるよう心がけています。
「陣の里」外観と内部の写真
【小野寺】先ほどの、他地域の方と地元の方との交流がポイントになっているかと思いますが、やはり人が繋がっていくと活性化されてきますよね。最近は移住定住が流行りですが、菅原さんの目から見ていかがでしょうか?
【菅原】私はこれまで移住定住の成功事例しか聞いていないのですが、移住者は意外と身の回りにいて、それぞれの活動をしながら皆頑張っているようです。地元の人が気づかないところにもよく気づきますし、活動家として周辺の人を魅了したり繋げたり。興味本位なのか、地元の人も野菜を差し入れたり畑の作り方を教えたり、そんな良い意味でお節介を通じて交流が生まれ繋がったりしています。でも移住者同士の横の繋がりは少ないように思います。
【小野寺】移住者同士の繋がりは少ないのですか?
【菅原】繋がりが少ないというか、そもそもお互いを知らないんですよね。もったいないと思います。
【小野寺】移住してきた方同士の繋がりもですが、移住してきた方と地域の繋がりもですよね。もともとの地域コミュニティがありながら、そこにはまだ知られていない色々な人がいるので、そういう人たちをいかに表舞台に出させていくかが最近すごく大事な役割だと思っていて。
【菅原】たまたま僕は民生委員や自治会の副会長、市民活動団体の事務局長などをやらせてもらっているので、そこで地域と繋がり、僕のことや陣の里の活動も知ってもらえていますが、それがなければどう地域と繋がるかですよね。
【小野寺】なので、いかに人を紹介する仕組みを作るかですよね。特に移住してきた方は、既存の地域の方からすると人となりがわからないでしょうから。
【菅原】僕のように地域の役員でもしていなければ地域の活動を外から見るしかないし、周りからのヨソモノという見方が取り払えないと思いますね。
【小野寺】移住者同士のネットワークをつくりつつ、移住者と既存のコミュニティを繋ぐネットワークもつくる。この2方向がすごく大事だと思います。やはり「人」と「成り」を紹介する、一役買うポジションの人を構築していかないとと改めて思いました。
(写真左上)玄関右手には職員室の小窓を設置
(写真左下)レトロなミシンコレクション
(写真右)技術室から移動したシャフト(天井)
【小野寺】「移住定住」というより、自分のライフスタイルの確立ですよね。自分のライフスタイルをどうつくっていこうかという中で、一関というまちや土地があったりする感じなのだと思います。
最近は「自己実現」がキーワードになっているとも言っているんですよ。「自分のやりたいことができる地域で暮らしたい」という考えで、都会だけでなく、田舎を選ぶ人たちが増えてきているようです。「古民家で生活してみたい」とか「田んぼをやってみたい」とか。自分の思いを実現させるためにライフスタイルを確立しているようです。特に震災以降に自分の出身地を見つめ直したり故郷回帰する人たちが増えてきたと思っていて、Uターンや2拠点居住で、東京で生活しているけれど週末はこっちで活動するという人たちも増えてきている感じはありますね。
レトロな雰囲気のなか開催されたジャズコンサート
【菅原】市内でも2拠点居住で行き来している方いますよね。
私はもう少し地域を活性化できないものかと考えたりするんですが、やはり新しいものを創出するには、年配の方だけでなく若い人の考えや発想も必要ではないかと思うんです。今までの地域の流れやかたちづくられたものがありますが、その中で残すものは残し変えるものは変えるとか。お付き合いしていく中で少しずつ刺激し合いながら変化を望んでいます。
それもこれも、ある意味、地域の役員をしているから発言できる場がありできていることですけどね。皆それぞれ思いや言いたいことがあるんでしょうけど、発言の場がないと何もできませんから。やはり発言の場をつくることが大切ですよね。