(idea 2025年1月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
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「にこにこ職員のど自慢※1」に利用者様(写真左)が昔着ていた着物を着付けしてもらい出場。
見事グランドチャンピオンに輝いた(令和6年6月)。
※1 毎月1回「利用者様のど自慢」「職員のど自慢」をそれぞれ開催。どちらにもチャンピオン大会があり、職員も本気になって取り組んでいる。
平成30年、岩手県内初のレクリエーション介護士1級資格を取得し、令和元年には2級の講座を開講することができる「認定講師」へ。「にこにこプラザだいとうデイサービスセンター(株式会社いわい)」に勤務しながら、各種講師依頼にも対応中。奥州市胆沢出身、千厩町磐清水在住。3児の母。
対談者 レクリエーション介護士(1級) 菅原舞さん
聞き手 いちのせき市民活動センター センター長 小野寺浩樹
「高齢者の生きる『喜び』と『楽しみ』を見いだしていく様々な活動」をコーディネートする「レクリエーション介護士(以下、レク介護士)」。県内で初めてその1級資格を取得した菅原舞さんから、資格の本質や有資格者の役割を伺いながら、介護の現場だけでなく、地域でのサロン活動等の場でも大切にすべき視点・考え方について、改めて整理してみました(2回シリーズの後編。前編はコチラ)。
小野寺 「レク」というのは、いわゆる「レクの時間」に何をするか、という話ではなく、毎日の生活の中に、小さな非日常を取り込むことで、生活の質(QOL)を高めていくことであり、そうした好循環を生み出すスイッチを押す・回す役目がレク介護士だというお話でしたね。
菅原 はい。私たちの会社が所属するSGグループ※2では「今ひとたび、また」という理念を掲げているんですが、レク介護士ってまさにこれだと思っていて。デイサービスに通い始めたばかりの利用者様って「こんなところに来るようになってしまった」って落ち込んでいる方も多いんですが、デイサービスって「終わりの場所」ではなくて、「また地域に戻る」ための練習をする場所なんです。なのでここに来て終わり、ではなく、ここに来て「再び」になるように、私たちレク介護士は背中を押す。1から10までお膳立てをするのではなく、片手間に背中を押すだけです。
※2 東北医療福祉事業協同組合(病院、健診施設、介護保険施設、専門学校等の運営を支援する組織)とその組合員14法人からなる医療福祉介護グループ。グループ全体の総事業所数は約200(青森に始まり、岩手、宮城、福島、新潟に拡大中)。
小野寺 背中を押す、というのは、具体的には?
菅原 何より大事なのは、それぞれの目標設定をしてあげることです。体の調子が悪く、横になっているのが精いっぱいの人であれば、ここに来るだけで花丸100点なんですよ。体操ができる人の中でも、最初から最後までやることが目標の人がいれば、座って眺めていることが目標の人もいたり、逆に覚えた体操をお茶のみ友達に教えるということが目標の人も。この目標設定を誤ってしまうと、無理やりでも全員に同じことをさせようとして、職員も苦しいし、利用者様同士でも「何であんたやらないんだ」「何で私はできないんだ」となってしまう。それぞれに合わせた目標がしっかりあれば、そこに向けて片手間で声をかければ良いんです。
小野寺 地域のサロン活動などにも通じることですよね。100歳体操をすること自体を目標・目的にしてしまうと、そこにハマらない人たちは取り残されていったり……。
菅原 「みんな一緒」っていう時代は限界が来ていて、少し前だと、美空ひばりとか、唱歌とか、必ず全員にハマるものがありましたが、高齢者と言っても年齢幅があり、多様化、多様性の時代なんですよね。
小野寺 確かに。そうなるとやはり個別の目標設定やケアは重要ですよね。
菅原 集団レクの中でも、それぞれの人間らしさを引き出すような工夫は常に心掛けています。例えばレクに使う小道具など、あえて私は2~3割しかできていない状態で利用者様に見せたりするんです。例えば「このガチョウの人形、本当はカモメにしたいんだけど、どうしたら良いと思う?」って(笑)。そうすると、アイディアをくれるのはもちろん、裁縫が得意な人は手伝うと言ってくれたり。「任せた!」って言えば、喜んでくれる=スイッチが入る(回る)し、利用者様からしても、残存機能で楽しさと充実感を得ることができるので、そういう瞬間は「あざとく」狙っていきます。
小野寺 さっきも利用者の方がベッドにシーツを敷いている光景を目にしました。
菅原 彼女は最近ここに来始めたんですが、長年ボランティアをやっていたそうで、誰かの役に立つのが好きなんです。「利用者にやらせている」と感じる人もいるかもしれませんが、「やってもらっている」のであり、背中を押す一つです。
小野寺 そういう匙加減もレク介護士というプロの技ですね。
菅原 私こういうキャラクターなので、「舞ちゃんだからできるんだ」ってよく言われてしまうんですが、知識を持って、1回1回やるのがプロだと思ってて。例えば集団で体操をするにしても、「音楽をかけても誰もやってくれない」という相談をよくもらいますが、それは持っていき方が悪いだけ。準備ができてないのに始めるから参加率が悪いのであって、私は8割9割注目するまで始めない。注目させるために、いろんな切り口で話をします。体操の効能を聞けば納得してやる気になる人もいれば、「今日、私、肩痛いから、私の体操に付き合って」とお願いすると「しょうがないな」とやってくれる人もいる。それから「〇時に終わるからね」って必ず言うことで、トイレに立つ人も減らせる。そういうコツを教科書通りに毎回必ず1回1回やってるんです。
小野寺 「場づくり」ですね。我々も地域の会議などでファシリテーションを頼まれたときは、やはり時間を明確に見える化するなど、場づくりは意識していますが、介護分野でも共通していたんですね。
菅原 そうですね。特に介護の場合、朝のお迎えの時からつながってきます。だって朝一言も会話しなかったのに、レクの時間になって急に「みんな楽しくやりましょう!」なんて言われても嫌じゃないですか。全てがつながっているので、「最新のレク道具を導入しました」とか、誇らしげに言われたりしますが、そういう話じゃないんですよね。
小野寺 レクの時間だけを切り取って、そこだけを充実させようと思っても、無理ということ。
菅原 逆にレクの時間以外を頑張ると、レクの時間を頑張らなくても良い空気感ができる。そして利用者様には「人に回してもらう、ご機嫌とってもらうんじゃなく、自分で回すんだよ」って言ってるんです。自分で自分の機嫌を取るって、健康じゃなきゃいけないし、余裕もないといけない。自分の余裕があって初めて人のことも回してあげられる。そのためには「ちょっとしたことを楽しいと感じられるか」が大事で。健康だった時代の楽しさとは違って、不自由になった今だからこその笑い、楽しさがあるはずなので。
小野寺 自治会等でも高齢化社会でいかに高齢者が元気に生きていくか……という課題に向き合ったりしていますが、日常のサイクルの中に、どう非日常を入れていくか、100歳体操含め、ただやれば良いのではなく、丁寧な場づくりなど、改めて見つめ直すきっかけとして「レク」の正しい考え方を普及していきたいですね。