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田園回帰の動きもあり、近年話題になることが多い「古民家」。築50年以上経過していれば「古民家」と呼ばれることもありますが、川崎町薄衣に令和2年2月に本格的にオープンした「農家体験民宿 古民家 薄衣」は築150余年の民家を改装した正真正銘の「古民家」。1棟貸し切り型(1日1組限定)の宿泊施設で、希望に応じて季節の農業体験も可能。コロナ禍でも盛岡や仙台等からの宿泊客があるほか、教育旅行の受入れや、撮影イベント等の会場としても幅広い年代から利用されています。そのほか、敷地内の離れや納屋もカフェ風に改装して時間貸しをするなど、地元住民のニーズにも応えています。
(idea 2021年6月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
県道東和薄衣線から500mほど山に向かって車を走らせると、黒々と光る美しい屋根の古民家が見えてきます。急な「ジョノグチ」を上がった先は、北上川はもちろん、奥羽山脈までも望める見晴らしの良いロケーション。そんな高台に構える築150余年の古民家を改装したのが「古民家 薄衣」です。
オーナーの千葉健司さんは、実は生まれも育ちも東京都。同古民家は父親の実家であり、幼少期はお盆や年末に訪れていましたが「トイレは屋外だし、虫は多いし、大嫌いでしたね」と、驚きの発言が。
大学卒業後、関東で大手企業の営業として働いていた千葉さんが、この古民家を相続することになったのは若干25歳の時。千葉さんが20歳の時に父が他界し、その5年後に祖父も他界したため、長男だった千葉さんへと名義が引き継がれたのです。
「名義は移ったものの、住もうとは考えもしなかった」という千葉さんですが、30歳を過ぎると気持ちに変化が。「農家民宿」が流行り始めた頃でもあり、「何か自分でやりたい」と考え始めます。同僚からの「定年後でも良いのでは」という助言をよそに、「定年後ではせいぜい10年くらいしか挑戦できないが、今なら挑戦して失敗したとしても、違う何かに挑戦できる」と、35歳で一念発起。退職し、薄衣の地へ。
約2か月間、ホテル生活をしながら改装業者を探し、その後の約1年半は隣組の家に空部屋を借りながら、改装工事を進めることに。「古民家の改装に関する本などは読んだが、先入観を持つのが嫌で、古民家民宿の先進事例等の見学はしなかった」という千葉さん。現場で都度アイデアを出し合い、大工さんと試行錯誤しながらの改装だったとか。
そうして完成したのが、家族や仲間との団らん、田舎でのスローライフを体感できるようにと創意工夫された空間。新旧要素を織り交ぜながらも、玄関をくぐった瞬間は150年前の雰囲気を体感できるように、コンセントが見えない配電など、こだわりが隠れています。
移住1年目から農家としてピーマン栽培も始めた千葉さん。農業初心者でしたが、JAのフォローもあり、現在では宿泊者のオプションとして農業体験が提供できるほどに。
インターネットを介した本格的な予約開始時期がコロナ禍となってしまいましたが、「この状況も面白いと思っている。最低なタイミングでのスタートだった分、これ以下はないはず」と明るく語る千葉さんは、今後の展望があると前置きしつつも「目標に向かうことを辞めました。追われるばかりでは田舎暮らしの意味がないので」と語り「あえて自転車操業をしている」と笑います。
幼少期は大嫌いだったこの敷地を「『都会の立地の良さ』と『田舎暮らしの立地の良さ』は違う。ここはまさに後者」とし、今後も大切に守り「育てて」いきます。
オーナーの千葉健司さんは当主としては12代目。住民として地域活動にも積極的に参加しています。
「古民家 薄衣」外観。縁側から眺める桜は絶景。
玄関をくぐった瞬間に広がる光景。