毎月さまざまなテーマで地域づくりについて考えていくコラムです。
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第15話(idea 2020年6月号掲載)
「高齢化社会」というと「高齢者が増えること」が問題のように捉えられるかもしれませんが、生きがいを持ち、介護の必要がない元気な高齢者ばかりであれば、特に問題はありません。ちょっと気にしなければいけないことは、「長寿化」による「健康寿命」と「平均寿命」の「差」です。
内閣府の高齢社会白書(令和元年度版)によると、男性は平均寿命が80.9歳で健康寿命が72.1歳。女性の平均寿命が87.1歳で健康寿命は74.8歳。その差は、男性が8.8歳、女性が12.3歳。男性は約9年間、女性は約12年間、「元気」とは言いにくい状態になり、これが高齢化社会の問題の一つに発展します。認知症を患ったり、その他の病気を抱えるようになり、高齢者だけでは日常生活が困難になってくるからです。
こと認知症においては、65歳以上の認知症高齢者数と有病率の将来推計※についてみると、平成24(2012)年は認知症高齢者数が462万人と、65歳以上の高齢者の約7人に1人(有病率15.0%)でしたが、令和7(2025)年には約5人に1人になるとの推計もあります。 ※平成29年度版高齢社会白書(内閣府)より
たとえば、ゴミ捨ての日を忘れてしまい、ゴミが(正しいルールで)捨てられない人が出てきたとき、地域の人たちは、「ゴミを出す日じゃない」と注意をする。そうすると怖くてゴミが出せなくなる。ゴミがどんどん溜まっていき、ゴミ屋敷と揶揄されるようになる。そのうちに「一人暮らしの高齢者は心配だから施設に入れた方がいいんじゃないか」と地域からの排除が始まっていきます。でも、ゴミの日に声をかけたり、ゴミ出しを手伝ったりすることで、地域で生活し続けられる可能性も。
地域の人から見れば、認知症の一人暮らしの人を「困った人だ」と思うかもしれませんが、当事者としては、やりたいことがあるのに、そのやり方が分からなくなってしまった「困っている人」なのです。困っている人がいるなら助けてあげよう、そんな地域コミュニティが今、必要なのです。
20年程前から「地域包括ケアシステム」の構築と言われてきましたが、なかなか実現に至らなかったことから、介護保険制度の見直しをはかり、地域における支えあいの体制整備をしようということで「生活支援体制整備事業」に各自治体が取り組むことが義務化されました。
地域包括ケアシステムは、医療と介護の連携、そして「地域での支えあい」がセットになっています。医療と介護に関しては専門職の領域になるので、専門職が行いますが、地域での支えあいは、「誰がやるの?」となりますね。健康寿命を延ばすための介護予防教室やサロン活動も日ごろの取り組みとして定着してきており、ここを地域での支えあい活動に位置付けることもできるのですが、100歳体操等の取り組みは、認知症や介護状態になることを防ぐための身体機能を維持していくという視点がメインであり(もちろん生きがいづくりや交流という機能もありますが)、対象者も固定化してしまいがち。「困りごと」を抱えている人が増えてきたとき、こうした取り組みばかりでは「地域での支えあい」になりません。
そこで登場するのが「生活支援体制整備事業」です。生活支援体制整備事業が目指しているのは、「生活支援をはじめとしたさまざまな‘場(機会)’‘仕組み’を‘地域住民みんなで’創り出していく」ことです。地域に孤独を感じている一人暮らしの人がいたとして、集いの場を創り出すことで、孤独から少し解放されるだけでなく「庭の草取りができなくなった」というような日常の悩みを共有できるようになり、地域の誰かに手伝ってもらったりという相互コミュニケーションが生まれ、地域において「支えあいの暮らし」が送れるようになるかもしれません。地域で支える中で、いよいよ専門職の手が必要だという時には、医療や介護事業所にバトンをつなぐというイメージです。
「地域づくり」は、「‘生活の場’としての地域における課題解決への取り組み」であり、生活支援体制整備事業が目指す姿と同じと言えます。「生活支援体制整備事業は福祉事業だから」と線を引くのではなく、少子高齢化、人口減少に適応した地域運営に見直していくための一つの視点として、地域づくり活動の中でも持ち合わせておく必要があります。