毎月さまざまなテーマで地域づくりについて考えていくコラムです。
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第19話(idea 2020年10月号掲載)
※ここで言う「自治会」には民区、集落公民館、集落会等を含みます。
前号では、自治会活動の「負担金」について触れましたが、今回は「自治会費」そのものについてです。自治会費は、自治会活動を行うために会員が会費として納めるものですが、会費の使い道としては、防犯パトロール、ゴミ集積場の管理、防災活動、自治会で管理している防犯灯や照明の設置、電球の交換、交通安全運動、地域交流、地域情報の共有に係る印刷経費、子ども会や老人会の運営など、多岐に渡ります。
自治会費の金額は自治会毎の取り決めですから、地域によって異なります。当センター主催の「自治会長サミット」で自治会費について議論をした際には、月400円~1,000円、年額に換算すると4,800円~12,000円という範囲に収まる自治会が多いようでした。ずいぶんと差があるように見えますが、金額が多い自治会によくよく聞いてみると、自治会費に各種団体への募金や寄付金を含めて一括徴収するやり方を導入しているため、1回の徴収額としては多いように見えますが、純粋な自治会費は5,000円程度だというケースも。
「純粋な自治会費」という表現が気になるところですが、こんな発言もありました。
今までは自治会費の中から各種募金を出していたが、住民や自治会の役員の中から「募金は個人の善意で支払うもので、強制的に徴収するのはおかしいのでは?」と言う意見が出てくるようになりました。それに伴い、現在は自治会長ないし区長が各戸を回り、募金を集めています。
実際、募金や寄付金を自治会の会費から支払う行為に関して、過去に違法と判断された裁判例があります。その内容を見ていきましょう。
滋賀県甲賀市甲南町の「希望ケ丘自治会」は、従来、赤い羽根共同募金や日本赤十字社への寄付金などを、各世帯を訪問して任意で集めてきた。この寄付金はグループ長(≒班長)らが各家を1軒ずつ訪問して集めていたが、約940世帯ある上に、近年は協力を断られたり、日中は留守にしている家が増えているなど、年々負担が大きくなっていた。そのため、グループ長になるのを避けようと休会する人まで発生するように……。
そこで、集金にあたるグループ長らの負担を解消すべく、2006年3月の定期総会で「年会費6,000円の自治会費に募金や寄付金など2,000円分を上乗せ(増額)して徴収する」ことを諮り、賛成多数で議決。増額分の会費は、地元の小中学校の教育後援会、赤い羽根共同募金会、緑化推進委員会、社会福祉協議会、日本赤十字社及び滋賀県共同募金会への募金や寄付金に全額充てるとした。
これに対し「寄付するかどうかは個人の自由」と、一律徴収に反対する住民が原告となり、総会の翌月、「本件決議は思想・良心の自由等の侵害である」ことを理由として決議の無効確認等を求めて訴訟を起こした。
(最高裁判所第1小法廷 平成20年4月3日判決)
本件決議に基づく増額会費名目の募金及び寄付金の徴収は、募金及び寄付金に応じるか否か、どの団体等になすべきか等について、会員の任意の態度、決定を十分尊重すべきであるにもかかわらず、会員の生活上不可欠な存在である地縁団体により、会員の意思、決定とは関係なく一律に、事実上の強制をもってなされるものであり、その強制は社会的に許容される限度を超えるものというべきである。したがって、このような内容を有する本件決議は、被控訴人の会員の思想、信条の自由を侵害するものであって、公序良俗に反し無効というべきである。
募金や寄付行為は、個人の自由意思に基づくものであるはずですが、会費から支払うことで「強制徴収」となり、本来の趣旨にも反します。あくまで、任意で行われるべきものであり、強制することはできませんので、注意する必要があります。当市内においては、総会での議決のほか、各戸から賛同者の名簿を取るような仕組みにしている自治会が多いようです。上述の自治会長サミットにおける発言のように、自治会長が各戸を回り、個別に承諾を得るような取り組みは、強制ではないということの現れですが、総会決議だけで一律徴収を決めている自治会は、一度その仕組みを見直してみることをおすすめします。