毎月さまざまなテーマで地域づくりについて考えていくコラムです。
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第32話(idea 2021年11月号掲載)
地域づくり活動に関わっていると、「その成果は何?」「どれくらいのお金がかかったの?」というような、「成果指標」に関する話題は事欠きません。
たしかに事業をすれば、経費もかかるし、時間も労力もかかります。上記のような会話は、かかった経費に対して費用対効果を伺う場面でよくあることですが、地域づくり活動においては、費用対効果ばかり意識してしまうと‘価値が下がる’こともあります。
「成果主義」という考え方は、仕事の成果や結果を社員の評価基準にし、給与や賞与に反映するというもの。日本では高度経済成長期以降「年功序列型」の考え方が一般的であり、勤続年数や経験で評価されていましたが、バブル崩壊以降は競争力の向上などを目的に、成果主義を導入する企業が増えました。この成果主義への転換を経験した先輩方が定年を迎え、地域づくり活動に役員等で関わることも増え、‘地域づくり活動も経営と同様に考えるべき’という思想が……。
もちろん、この考え方は間違ってはいません。地域づくり活動においても経営的な視点は必要です。でも、成果主義とは、‘人事評価の仕組み’であり、‘経営状態を安定させるための手段の一つ’です。「成果」だけを求めるような考え方ではないのですが、時々、間違った解釈で使われることが……(笑) 。まあ、言わんとすることは理解できます。
しかし、経営の視点ばかりではダメなのです。地域づくり活動は、費用対効果だけでは測れない“なんともファジーな業界”だと思っています。
「効率」も重要ですが、「非効率」も重要なのが地域づくり活動だからです。
本誌の『自由研究』も費用対効果では一切価値が図れません(笑)ほんの見開き1ページの誌面のために毎回数か月かけて調査。今月掲載分も、誌面では一切触れていませんが、スタッフが絵図と現在の地図を見比べながら現地を歩き、直撃取材し……と、目に見えないところでそれはそれは膨大な労力をつぎ込んでいます(笑)
「話し合いばかりで効率が悪い」という方もいますが、話し合いに時間をかけ、みんなで知恵を出し合って考えた結果、みんなが納得している状態が創り出せたら、非効率だと思われていたことが結果的に「良い成果」をあげたことになります。話し合いに時間をかけず、みんなが納得していない状態でモノゴトを進めようとした結果、モノゴトの途中で振り出しに戻ることの方がよっぽど非効率です。
地域とは、住民一人ひとりが暮らす生活基盤であり、経営の視点だけでは図ることができないことが多々あります。一般的に経営を考えたらやめざるを得ないことでも、住民の暮らしにとって必要不可欠であればやめることはできません。お金を生むコトと生まないコトの両面を持っているのが「地域」です。
‘見える価値’ばかりではなく、‘見えない価値’こそしっかりと評価することができれば、そこに関わる人の成果が評価されることになります。しかし現実は、数値的な評価をはじめ、‘見える価値’しか評価されないことが多々……。また、その数値的な評価を得るための「プロセス」にも、計り知れない価値が詰まっているのですが、残念ながらこの「プロセス」も、評価対象にならなかったり……。
‘見えない価値’も大事にしなければいけない地域づくり活動では、「地域経営」という表現より「地域運営」の方がしっくりくるような気がして、当センターは、「地域運営」という表現を積極的に使っています。
人は‘損得勘定’で動くことがありますが、地域づくり活動は損得勘定では成り立ちませんし、そもそも一般的な損得勘定では図ることができないコトばかりです。個人にとっては‘損’と感じることでも、地域全体で見れば‘得’だったり……。単純な損得勘定で図ってしまうがために、‘負担’ばかりが目につき、「役のなり手がいない」という課題を生むのですが、‘もっと大きなものさし’で考えてくれる誰かがいるおかげで、地域が支えられているのです。
これからの人口減少社会、‘誰かが’ではなく、‘みんなで’やらないと、支えられなくなります。簡単なようで難しい地域づくり活動、住民代表である自治会長は、見えない価値にも目を配りながら、地域づくり活動の舵取りをしているんだなぁと、改めて敬意を表します。