毎月さまざまなテーマで地域づくりについて考えていくコラムです。
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第58話(idea 2024年1月号掲載)
その事業、誰(何)のためですか?
「憧れるのをやめましょう」
WBC(2023WORLD BASEBALL CLASSIC)の決勝戦前、大谷翔平選手がチームメイトに語りかけたこの名言は、記憶に残っている方も多いでしょう。
憧れてしまったら超えられない。「地域づくり」の現場でも、‘事例に学ぶ研修会’は多いですが、個人的に‘事例に学ぶ研修会’は好みではありません。それは‘憧れ’に近いからです。立派な事例を聴けば聴くほど、それらが身近なものではなく、「自分たちには到底難しい」という結論に至ってしまうこともしばしば。
事例に学ぶのであれば、その事例が生まれるまでの「背景」や「プロセス」を聴き、自分たちの状況や考え方と比較しながら、「一歩でも前に進むためのエッセンス」を吸収すべきです。これは、研修会を立案する側も意識しなければいけないことなのですが、なかなか変わらないです。このように、‘変わらなければいけないのに変われないもの’って、けっこうありますよね。
人が多かった時代に築き上げた地域の「事業(≒行事)」も、マンネリ化が進み、いざ見直しをしようというときの「評価の基準」が、「実施回数」や「参加人数」だったりしがちです。そもそも人口減少時代と言っていながら、評価基準が人が多かった時代と変わらないということには違和感しかありません。人が多かった時代の参加人数を超えることは容易ではないですし、事業回数を維持・増加させることは‘負担の上乗せ’になる可能性がある訳で……。「ニーズが多様化しているから、様々な種類の事業が必要だ」と、良かれと思って事業を増やすこともあるでしょうが、ヒト・モノ・カネ・ジカンの無駄遣いになるリスクも伴います。
「俺たちがやってきたことを廃止するのか」と、先輩世代が声を荒げるような議論を目にすることもありますが、そのような議論では、感情論が先に出てしまい、「現状分析」と「未来思考」は二の次にされていることが多いです。これまでの努力は理解した上で、継続が難しいという現実もあるのですが……。
「地域づくり」は、‘実績’や‘評価’のためにするものではありません。時代によって取り組まなければいけない課題やその背景は異なり、刻一刻と変化する事情に対応し、「いつでも安心して安全に暮らしつづけられる地域」にしていく。いわば「メンテナンスの繰り返し」のようなものが「地域づくり」だと思うのです。そこに‘実績’や‘評価’が関係してくると、関係性がおかしくなってくると感じています。
人によっては、自分の手柄を誇りたくなります。それも大事です。その人の努力がなければ成しえなかったことだってあるので。でも、それに固執しすぎてしまうと、時代錯誤になることも……。
「成果」=‘やった人’や‘実績’ではなく、「地域の暮らしが良くなったか否か」という視点が必要です。名が残るのは、後世の評価でしかないので、今すべきことではありません。今優先すべきは、難解化かつ複雑化する課題と向き合い、いかに「‘地域の暮らし’と‘地域らしさ’を後世につないでいくか」です。
「地域づくり」は、具体的な数値化が難しいため、「ニーズやプロセスに対する評価」が求められます。そこには、関わる地域住民の‘表現しがたい努力の積み重ね’があるからです。実績や評価にこだわるなら、ここです。
周囲から見たら‘誰がやったっていいこと’で、誰も気にしていないのです。そこにこだわってしまうと、見直しをしようにも、なかなか進みません。‘人となり’を切り離して考える。そうしないと、関わった人に対する好き嫌いが判断にも影響してしまい、変えられるものも変えられなくなってしまいます。
過去に憧れるのではなく、未来に向けて……。
‘憧れ’を超えていかなければいけないのではないでしょうか?