毎月さまざまなテーマで地域づくりについて考えていくコラムです。
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第69話(idea 2024年12月号掲載)
「良さ」を引き継ぐために
「昔は良かったね」と比較できるのは昔を知っている人だけであって、若者や子どもたちにとっては今がスタンダードですから、‘昔の良さ’をただ押し付けても仕方がない話。むしろ大事なのは、今を生きるにあたり、‘昔は『何が』良かったのか?’を分析し、‘その良さの要因を今に活かせるなら、どうするのか?’を考える視点も必要でしょう。
見方を変えると‘昔の良さ’というのは‘慣れ親しみ’を指し、現在普及しているモノや考え方に使いにくさや馴染みのなさを感じ、否定的になってしまうのではないでしょうか?同じように、今の人たちに昔の良さを伝えたとしても、使いにくさや馴染みのなさから「今の方が良い」と感じると思うのです。
携帯電話が無かった時代に比べると、ある方が便利であり、「昔の方が良かった」と思う人はそれほどいないはず。インターネットが普及し、スマートフォンを使えば手元でインターネット検索ができるため、ふと気になった言葉や地図など一台の端末だけで事が足りるのは、非常に便利です。
人によっては、「駅にあった黒板の伝言板がよかった」という意見もあり、それが復活している所もありますが、これは‘不便であるがゆえに新鮮さを感じる’点が話題になっているのであって、実際はコミュニケーションツールとしては効率が悪く、情報漏洩などのリスクが目立ってしまいますよね。相合傘などがたくさん書いてあったのは懐かしいのですが……(笑)
さて、前置きが長くなりましたが、「町内会の在り方についての住民座談会」を開催することになり、支援に入ったときのエピソードをお話します。
コロナ禍で町内会活動も思うようにできず、町内会費の徴収などに不満をもつ住民の存在から‘町内会不要論’も飛び出すようになり、住民座談会3回目のテーマで「町内会が無くなったら?」という話し合いをしました。「子供会育成会でやっている廃品回収は、町内会が無くてもできるもの?」という質問に、現役世代は「できる」と回答しながらも今の運営方法を話します。そこに、かつての現役世代が、「私たちの頃、廃品回収は、子どもたちが訪問することで住民と顔を合わせる機会にしていたのよ」と伝えました。
今の廃品回収は‘効率重視’と‘資金獲得’がメインになっているため、子どもたちが住民と顔を合わせることがなく、廃品回収のそもそもの目的を知った現役世代からは、感嘆の声が。さらに、「かつては子供神輿をしていて、そのご祝儀のほうがよっぽど稼げた」という話題も。しばらく子供神輿も中止になっていたことから、神輿があることすら忘れさられており、今でも倉庫に大切に保管されていることを知る場面でした。
廃品回収という事業の引き継ぎはされてきたけど、目的の引き継ぎがされてこなかった現実を受け止めながら、そもそもの目的を知った現役世代は感動している様子でした。今の時代に出てくる負担感は、業務を受けることが負担になっていて、住民の関係構築、すなわち住民みんなで支えあうという目的を喪失した結果の不満になっているのです。
当初は、目的と手段が引き継がれていたのでしょうが、一度、曲がって伝わってしまうと、曲がったままがスタンダードになり、修正されずに引き継がれてしまいます。そこが‘地域運営の落とし穴’です。
昔は良かった……それは、目的に対して‘手段の合意’と‘参加・協力’があったことなのでしょう。
時代と技術は進んでおり、現代においても昔と変わらず「いいね」となるよう、上手に「良さ」の引き継ぎをしていきたいですね。
木六自治会(千厩町)では資源回収ステーションを設置し、各組(班)の当番制で公園の管理や資源回収事業を運営。資金獲得だけでなく、集落内の環境改善にも役立てており、自分たちで住む場所を管理する「支え合い」を大事にしています。