※お願い※
記事内の写真や資料は、当情報誌での使用について許可をいただいて掲載しております。
無断での転載などの二次利用はご遠慮ください。
紙芝居を活用した「語り」の様子
(idea 2022年4月号掲載)※掲載当時と現在では情報が変わっている可能性があります。
平成27年結成。毎月の定例会で地域に伝わる昔話・伝説を方言(藤沢弁)に書き換え、藤沢地域のお茶会、老人福祉施設等で「語り」として披露(コロナ禍で定例会は自粛中)。現在の会員は6名。
〒029-3311 一関市藤沢町黄海字京堂101-7(事務局:千葉)
TEL&FAX:0191-63-4424
「石になった和尚さん」「正坊滝」など、昔話が数多く残る藤沢地域。物語に目を通すと「申楽※1を見逃したショックで和尚さんが石になってしまった」「正坊滝※2でつかまえたウナギがしゃべった」など、物語の展開は非現実的な部分がある一方、舞台となる地名は明確で、藤沢の各地区に今も残る史跡等と関連がある物語が数多く存在するため、「もしかしたら本当に?」と思ってしまいます。
※1 日本における伝統芸能のひとつ。現在は「能楽」と呼ばれているもの。
※2 藤沢町と宮城県登米市の県境に実在した滝で、現在は相川ダムの湖底に沈んでいる。
平成25年、旧藤沢公民館が「いちのせき元気な地域づくり事業」で取り組む新たな内容を住民主体で検討する機会(ワークショップ)を設け、当時藤沢図書館の職員だった「ふじさわ語り部の会」会長の千葉幸子さんも参加しました。
地域づくりにつながる事業を検討する中で「藤沢に伝わる昔話を後世に伝えたい」という声が上がり、幸子さんも「子どもたちにも分かりやすく伝えられるように紙芝居や絵本を作りたい。できれば藤沢弁※3を交えて作り、語り継ぎたい」という想いを共有しました。
※3 旧藤沢町近辺の方言。「ふんつぁあ弁」とも言う。
その想いが具現化し、平成26年7月、同事業の一環として「藤沢のむかしばなし伝承プロジェクト」が発足。昔話を題材にした紙芝居の制作、昔話・伝説のリスト化のほか、藤沢地域に主軸を置いた「語り部の会」設立に向けた動き(語り部の養成)も盛り込まれ、取り組みがスタートしたのです。
同年11月、同プロジェクトで「語り部養成講座」を開催すると、プロジェクトチームメンバーと一般市民合わせて23人が参加。講師は「いちのせき語り部の会」の佐藤軍治さんで、方言を交えた語りの注意点や、語りのリズム感などを学びました。初めて生の語りを聴いた幸子さんは、「方言を交えつつも語り口がスムーズで、終始聴きやすかったことに驚いた」と振り返ります。
平成27年5月、受講者ら12人で「ふじさわ語り部の会」を結成すると、「語り」についての視察研修等も行いながら、技術習得につなげました。
また、「語り」に使用する「原稿作り」にも取り掛かります。藤沢町文化振興協会が発行した『民話と伝説 藤沢のむがしっこ』に収録されている昔話(全84話)を「藤沢弁」に改訳。一話一話が「むがーすむがす、あったどっしゃ」で始まり、「えんつこまんまさーぎゃった※4」と締めくくります。
※4 直訳すると「赤ちゃんが入ったまま揺り籠がひっくり返った」=「赤ちゃんが大きくなった」。転じて 「めでたし、めでたし」というニュアンス
平成27年11月、藤沢市民センターで開催された「はつらつセミナー」内で初めての発表機会が訪れます。藤沢弁ベテラン世代が耳を傾ける中、「滑石(なめりいし)」「石になった和尚さん」「正坊滝」などを発表。その結果、「久しぶりに聴いて面白かった」などの感想とともに、聴講者から方言の使い方をアドバイスされる場面も。
「藤沢のむかしばなし伝承プロジェクト」は3年(平成26年~28年度)で終了し、地域に伝わる昔話や伝説は130話をリスト化、そのうち2話を紙芝居にしました。これらの成果物は、同会の活動の中で使用されています。
平成27年の結成以来、藤沢町内のお茶会や高齢者福祉施設、老人クラブ、さらには方言川柳大会(藤沢町芸術文化協会主催)など、地域内の各所で昔話を披露している同会。コロナ禍で聴衆を目の前に話をする機会は減少、定例会すら開催しにくい状況になっていますが、令和3年11月末、「ふじさわ地域包括支援センター」が運営する高齢者サークル「にこにこ来楽歩」にて久しぶりに語り部の機会が。感染対策を施しながらの発表でしたが、「懐かしい」「若い人にも聞かせたい」という嬉しい声をいただきました。
幸子さんは、「昔話の原稿作り作業や発表を通し、伝承の『形』は作りました。それをどう活かしていくかが今後の課題です。今まで聴衆のほとんどが高齢者で、子どもたちに読み聞かせる機会がなかったので、学校や図書館で読み聞かせがある時は、語り手として協力したいですし、多様なメディアの時代だからこそ、1つでも多く昔話を伝承していきたい」と、今後の抱負を語ります。
会員の高齢化など、発足から7年で会員が半数になりましたが、「興味のある方は会員として大歓迎です!」と、地域に伝わる昔話を、地域の言葉で次の世代に語り継ぎたいという意欲は、構想段階当時のまま、今も健在です。
ちば さちこ
千葉 幸子さん
伝承プロジェクト発足時からリーダーとして活躍。「自分自身が地域の文化・伝統を見つめ直すきっかけになった」と語ります。
A.心のふるさと
ちば まつお
千葉 松男さん
発足当時は旧藤沢公民館長として伝承プロジェクトや同会に関わっていました。記憶力を鍛えるため、一人一話は昔ばなしを暗記することが目標だとか。
A.地域のお宝
発表時は半纏を着用し、紙芝居も活用するなど、目と耳で昔話を楽しめるよう工夫しています(写真は令和3年11月)。
台本製作の元になる資料(左)と、同会の台本をまとめた冊子(右)。「えんつこ」は「えじこ(嬰児籠)」のことを指します。
同町内のグループホーム「やまばと」での発表。昔話を聴くと、脳が活性化することもあるとか(写真は平成29年6月)。
昔話の舞台・同町増沢の「立石神社」。社殿後方には「和尚さん」だったと伝えられる大きな岩がそびえ立ちます。